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“宇宙冷蔵庫”誕生秘話――ツインバードの冷蔵庫はいかにして宇宙へと羽ばたいたのか?滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(3/3 ページ)

» 2014年04月11日 17時55分 公開
[滝田勝紀,ITmedia]
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 気が遠くなるような多くの要求事項を全て満たすために1カ月ほどの時間がかかった。また外注先での詳細設計や部品調達、要素試作に3カ月程度。さらに30項目以上の評価試験を2回行い、5カ月ほどの時間をかけた。全体でおよそ10カ月という期間は、実は常識的には考えられないほどの短期間ではあるものの、それが実現できたのはひとえにツインバードを中心とする中小企業の人たちの並々ならぬ情熱と高い技術力にある。

FROSTとともに簡易的クーラーボックス「ICE Box」の要素試作を同時に受注。4℃保存を10日間無電源で実現する。主に地球から宇宙へと打ち上げられる道中で、サンプルなどの保冷状態をキープするために用いられる(c)JAXA/NASA

 2013年2月末までに試作機と試験報告書を完納して、この要素試作のミッションは完了する。本番は、宇宙産業の企業者が入札し、試作機と設計資料と試験データをもとに、打ち上げ用の宇宙用冷凍冷蔵庫を製作。出来上がった宇宙用冷凍冷蔵庫は、JAXAにより『FROST』と名付けられた。2013年8月に、前述の通り、種子島宇宙センターから補給船「こうのとり」に積み込まれ、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」へと打ち上げられた。なお、打ち上げ前に冷蔵庫本体と冷凍冷却ユニットを地上で合体させて打上げて良いと許可が下りたため、宇宙での結合作業は避けられたという。

(左)。2013年8月4日午前4時48分、種子島宇宙センターから打ち上げられたH2Bロケット4号「こうのとり」。藤野さんが撮影した

 「いくら地上で試験検証を繰り返しても、最終的に宇宙で動かなければ意味がありません。実際に宇宙空間に打ち上げられ、使うことができたと聞いた時は本当に安心しました。自分たちの技術が宇宙で役立っているということは、会社全体の励みにもなりますし、そういった高い技術をあらゆる分野で生み出せるようにこれからも頑張りたいですね」(藤野氏)。

「きぼう」日本実験棟内で使用されている「FROST」は、若田宇宙飛行士の左上後方で青色の太いラインが入った白い袋の中にある(出典:ISS・きぼうマンスリーニュース第8号の『きぼう』から超小型衛星を放出より)

いわゆる“ジェネリック家電”ではない

ツインバード工業の扇風機「コアンダエア」シリーズ

 ツインバードの企業プロミスは、「家電製品を通じてお客様の健康と笑顔を創造するために、お客様の声に耳を傾け、あったらいいなという思いをカタチにしていく」である。そのうえで、独自設計のハネの形状とDCモーターで、子どもの素肌にもやさしい思いやりの風を実現する扇風機『コアンダエア』や、スタイリッシュなミラーガラスデザインが美しい『ミラーガラス フラット電子レンジ』などが生み出されている。

 これらは一見、単なるコストパフォーマンスの良い生活家電に思われるかもしれない。が、こういったツインバードの生活家電には、実は地道な研究開発とともに、こういったFPSCのようなオリジナリティと、高い技術開発力が背景にあることが分かる。つまり、ツインバードの製品は、世の中でいう“ジェネリック家電”とはまったく違うものだと、ここで断言したい。

 「弊社では“B to B”の分野で技術開発をしていた人間が、その後“B to C”の生活家電などの開発に携わったり、逆の場合も多くあります。だからこそ、“B to B”でも“B to C”でも、全社的に常にお客さんのマインドに答える気持ちを持つことで、分野に関係なく、要望に応えられるのです」(藤野氏)。

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