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変えようとして変わらなかった奇跡の羽根――バルミューダ「GreenFan Japan」の真の価値滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(3/4 ページ)

» 2014年05月19日 13時47分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 「扇風機の風に影響のあるパーツとして、モーターと羽根以外に、羽根を囲むガードも挙げられます。これらを改良することで、今回風のエネルギー効率をさらに高めました。羽根とフロントガードの距離やバックガードの距離を変えることで、風はすごく変わるんです。それらを0.5ミリ単位でいくつも組み合わせを試しては、すべてデータを取り体感試験も行いました。それこそ、さっき説明した改良しようとした羽根との組み合わせもありますから、そこだけで何十というパターンを試してみて。さらにデザイナーたちにも、こんな形にしたいというそれぞれの想いもあるので、その形状を加えながらも、しっかりと風の質や性能が担保されているか、綿密な実験に実験を重ねながら調整を加えていきました」(寺尾氏)。

 そうした努力の結果、新製品の「GreenFan Japan」は、最大15メートルという距離まで“心地良い自然の風”を届けることができるようになった。「一般的なリビングルームであれば、隅々にまで風を送り届けることができるでしょう」(同氏)。

 動作音についても、辿り着くまでにはさまざまな工夫があったようだ。「13dBという音は、生活圏において、人間の耳にはほぼ入って来ないレベルの音ですが、その音さえも、フロントガードやバックガードと羽根の距離で変わってしまうので、風の質とともにこだわりました。風の質的には良くても、音の質が良くなかったり、それ以下の音にできたけど、風が良くないと却下したような組み合わせも実際にありましたが、とにかく風の質と音の最適なバランスを追求したのが『GreenFan Japan』なのです」。

 このように、気が遠くなるような地道な作業を、時間を掛けて繰り返すことで生み出された究極の“心地良い自然の風”。おそらくこれほど扇風機を追求して、綿密に作り上げているメーカーは、世界中探しても見つけることは難しいだろう。だが、風の良さを追求した点は、実はこれだけではないと寺尾氏は話す。

「GreenFan Japan」の「ホワイト×ブラック」と「ホワイト×グレー」。価格は3万5000円(税込み)

 バルミューダの「GreenFan」シリーズは、他の扇風機と比べても、パッと見で、非常にデザインがスタイリッシュであることが分かるが、特に最新モデル「GreenFan Japan」はその傾向が強い。これは寺尾氏自らデザインディレクターを務めると同時に、実はアウディの「Q7」「A5」などをデザインした世界的なカーデザイナー&プロダクトデザイナーの和田智氏が、社外のデザインディレクターとして参加しているからだ。そのデザインも、実は風の質に大きく関係している。

 「デザインの話をすると“見た目の良さ”だけに特化されがちですが、実は風の良さにも確実に関係しています。視覚は人間にとって大きなインプットデバイスであり、人は目から多くの情報を得て生きています。例えば、同じ“心地良い自然の風”が、汚いところから吹いてくるか、きれいなところから吹いてくるかで、その感じる快適さは大きく違うでしょう。だから、われわれはデザインも決して手を抜きません。それはパーツのひとつひとつに至るまで同じで、そういう意味で“デザインは性能”なのです」。

ネックのジョイント部パーツ。アルミ削りだしで作られている

 そのデザインの良さを表す象徴的なパーツとして挙げられるのが、ネックのジョイント部だ。「ネックのジョイント部のパーツは、今回アルミから削り出した一体成型のパーツを使うことで、あえてカバーなどで覆わずに見せることにしました。これは、パッと見た時に、プロダクトとして、扇風機はネック部分が動くことが普通なのだから、あえてこのジョイント部は可動することを表すパーツとして見せる方が自然だと考えたからです。かといって、見せるからには、このパーツが単なるプラスチックのパーツでは、例えそれが耐久性があるものであったとしても、見た目には良くありません。そこで、あえてアルミ削りだしで制作しました」。

ポールは下に行くほど太くなる。さらに中間ポールが脱着できるため、フロア型、卓上型を1台で兼ねる

 さらに、扇風機のネックから下へと伸びるポールについても“こだわり”があった。「実は、下に行くほどに少しずつ太くしています。これは物理的に安定感を増すという効果に加え、見た目にも同様の影響を与えます。例えば、自然に生えている木の幹というのものは、上部よりも根っこに近い下部のほうが太くなっています。そういう自然に感じられる要素もデザインとして取り込むことで、ユーザーが日常そんなことを意識しなくても安心して使えるという効果があります」。

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