アンソニー・ホプキンス主演の「ヒッチコック」は色彩演出に見るべきところの多い映画だが、「サイコ」のヒロイン役ジャネット・リー(スカーレット・ヨハンソン)とレストランで打ち合わせをするシーンなど、そのつややかな色の美しさと繊細なタッチのディティール描写、そしてすっきりとヌケのよいスキントーンの見事さに声もなく見ほれてしまった。この何ともいえない品格の高い4Kアップコンバート映像は、従来の液晶テレビの常識を破るものといっていいだろう。REGZA史上最高画質であることは間違いなく、先月の本欄で採り上げたソニー「X9500B」シリーズに好ライバル出現との思いを深くした。
今回の視聴では、BDレコーダーの最高画質モデルであるパナソニック「DMR-BZT9600」を用いたが、ふと思い付いてBZT9600の色差4:4:4(Y/Pb/Pr)各12ビット信号をHDMI出力し、本機の1080p画質モードを「ピュアダイレクト」に設定してみた。この状態で観た米国盤BD「インサイド・ルーウィン・デイヴィス〜名もなき男の歌」の画質がとてもよかった。
この映画は、数々の名作・佳作を監督してきたコーエン兄弟最後のフィルム収録作品といわれている最新作で、1961年のニューヨークを舞台に売れないフォークシンガーを主人公にした、ちょっと不思議なテイストの映画だ。輪郭強調をまったく感じさせないマスタリングも見事で、独得の立体感が醸しだされ、実に味わい深い。冒頭のコーヒーハウスでルーウィン・デイヴィスがギターの弾き語りをするシーンを観たが、薄暗い室内の階調情報が豊かに提示され、その精妙な映像造形力に息をのんだ。
Z9Xの映像信号処理回路は、前段に1080p信号用の「レグザエンジンCEVO」、後段に4Kアップコンバートなどを司る「レグザエンジンCEVO 4K」を置いた2段構成だが、前段の「レグザエンジンCEVO」の信号処理は10bitに制限されてしまう。「ピュアダイレクト」というのは、レグザエンジンCEVOを飛ばして、12bit信号処理の「レグザエンジンCEVO 4K」にダイレクトに入力するモードで、フル12bit信号処理が可能になる。そのメリットは、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス〜名もなき男の歌」の冒頭のような、微妙な階調表現力が要求される場面でおおいに威力を発揮することが実感できた次第だ。
理想の4K画質を追求した東芝「58Z9X」の画質インプレッションは以上だが、REGZA ならではの全録機能「タイムシフトマシン」により洗練された4K番組表が加わり、いっそう使いやすくなったこともぜひ付け加えておきたい。
画面下の狭ベゼルにスピーカーが配置された本機の音質は、液晶テレビの平均水準といえるレベルで特筆すべきものではない。本機の卓越した4K画質に音をバランスさせるには、まず両脇に良質な小型スピーカーを設置させることから始めたい。本機の画質品位に見合うサウンドバーや台座スピーカーは現在のところ存在しないと最後に断言しておこう。
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