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4K/8Kの先にある放送技術――NHK技研公開麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2014年06月05日 23時24分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

妥協も必要? 8K対応スピーカーシステム

ディスプレイの周囲に12個のユニットを配置

麻倉氏: 8Kスーパーハイビジョンは22.2chの音声をサポートしていますが、一般家庭でそれを実現するのはハードルが高すぎます。そこで新しいスピーカーシステムが2つ展示されていました。

 まず、ディスプレイ一体型のスピーカーシステムです。昨年は前方4chによるバーチャルサラウンドを提案していましたが、今年はディスプレイの周囲に12個のユニットを配置したシステムが登場しました。バイノーラル信号処理を行い、3次元の音響空間を作り出します。

 もう1つは、「8K SHV音響プレミアムシート」という展示です。とてもプレミアムには見えない椅子にボーズの小型スピーカーを6個取り付けていました。メインは両耳の横に位置する“耳元スピーカー”で、頭部伝達関数に基づく信号処理を行います。残りの4つは補助スピーカーで、耳元スピーカーと組み合わせて22.2chの音響を再現します。

 実際に聴いてみましたが、ディスプレイ一体型はもう少し明確なサラウンド感がほしいところ。プレミアムシートは音場はあるものの、広い音場を作るまでには至っていませんでした。今後の改良に期待したいですね。

「8K SHV音響プレミアムシート」

 また、今回の展示で1つ明らかになったことがあります。技研は8Kで22.2ch音声を打ち出しましたが、録音はともかく家庭でのそのディスクリートな再生は不可能に近いと技研自身が言っている、ということです。それが可能なら、家庭での22.2チャンネルのディスクリート再生システムを、実用のある形で提案すべきです。インストールもふくめて、それはなかなか興味のある提案でしょう。

意外とお気に入り?

インテグラル立体テレビ

麻倉氏: 先端技術開発の観点で見逃せないのが、専用メガネのいらない「インテグラル立体テレビ」です(裸眼立体視)。日本では2016年に4K、2020年に8Kの本放送開始を目指して準備を進めていますが、これはさらに10年先――2030年ころを目指したもの。撮影と表示の両方に微小なレンズを並べた“レンズアレー”を用い、立体像を再現するテレビです。

 毎年展示されていますが、あまり進展しているようには見えません。ただ、今回は映像というより“やり方”が変わっています。多様な被写体の撮影を可能にすると同時に、立体像の高品位化を図った撮影と表示の技術を展示していました

 映像の高品位化という点では、まず赤外線カラーカメラアレーからの立体像生成技術があります。例えば壁などのように“特徴点”が見つけにくい被写体があると、奥行きが分かりにくく立体像の品質が低下する課題がありました。今回は通常の照明に加えて赤外線によるとドットパターンを被写体に照射し、それを赤外線カメラとカメラアレーで撮影。被写体を撮影しやすくすることで映像の品位を向上させるアプローチです。また、7台のカメラを使って見える範囲を水平・垂直ともに従来の約2.5倍に広げた立体像も展示していました。

赤外線カラーカメラアレーと立体像生成(左)。複数のディスプレイを結合したインテグラル立体テレビ(右)

 一方、表示側では複数のディスプレイを結合したインテグラル立体テレビの試作機もありました。高品位のインテグラル立体表示を行うには多くの画素が必要で、これまでは立体感はあっても映像が粗すぎでした。今回の展示ではフルHDパネル4枚を並べて4Kとし、映像における多画素化を追求する段階に入ったようです。もっとも、ベースは4K解像度でも実際に見える立体像は118×160ピクセル(画素ではなくレンズアレーの数)。つまり4Kが1/4 SDになってしまうのですから、さらなる多画素化は不可欠ですね。

 3Dテレビの市場は冷え込んでいますが、メガネが必要ないインテグラル立体テレビは受け入れられる可能性もあると思います。しかし、立体像はどうしても普段見ている風景と比べてしまうのが難しいところ。「実用化してほしい」と思える解像度の展示機が出てくることを期待しています。

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