麻倉氏:以前のテクニクスは、テクノロジーの斬新さを切り口にして製品を作ってきたブランドです。ひずみのないアンプとか、位相がばっちり合うリニアフェーズスピーカーなどが代表例でしょう。実をいうと、私はかつてのテクニクスの音に感心したことはありません。音はあっても音楽がなかった。復活の話を聞き、そのままではちょっと心配だと思っていたときにIFAの発表会を見たので、かなり驚きましたね。
麻倉氏:トップはピアニストで、音楽的な観点を持っています。エンジニアたちもそれが分かっているので努力しているのでしょう。今年の2月頃に小川さんは試作機の音を聴く機会があったのですが、その場にいた人たちは皆、「う〜ん」と黙ってしまったということです。私は7月に聴いたのですが、やはり、スピーカーからの音離れがいまひとつの印象でした。しかしIFAで、発表会の後に改めて試聴したところ、カバーされているような印象はかなり払拭され、音が空間に浮遊し始めたような気がしました。
今回のテクニクス製品はすべてが新規ですから、手探り状態からのスタートです。このような場合、苦労が続いていても、ある時期から急に音が良くなったりするものです。テクニクスもまさにそういった状況で、来年の発売に向けて、しっかりと音作りする段階に入ったと思います。次第に良くなってきていますし、これからも変わっていくでしょう。
今回はトータルで約500万円という高価なシステム(Rシリーズ)と比較的安いシステム(C900シリーズ)の2ラインを発表しました。これは、いわゆるアンブレラ作戦ですね。高価で良い製品を先に作り、そのイメージで本命となる(ボリュームゾーンの)製品の販売を後押しします。
テクニクスには今後の製品拡充も期待できます。インタビューのとき、小川さんに「今後は何を作りたいですか?」と聞いたところ、「女性が楽しめるものを作りたい」と話していました。すばらしいことだと思います。
――麻倉さんは以前から“テクニクス復活”を唱えていましたから、感慨もひとしおですね
麻倉氏:ようやく実現しました。しかし、パナソニックにはもう1つ、考えてほしい製品分野があります。
それはIFAの展示会場に並べられていたもので、同社のハイエンドBlu-ray Discレコーダー「DMR-ZT9600」から録画機能を省いたプレイヤー専用機です。欧州では既に発売していて、価格は10万円以下。残念ながら日本で販売する予定はありません。
麻倉氏:話を聞くと、「日本では販売数が見込めない」と話していましたが、それは分かりません。近年は米OPPO Digitalの独壇場だった分野ですが、パイオニアの「BDP-LX88」やヤマハ「BD-A1040」など、国内メーカーのユニバーサルプレイヤー復帰が相次いでいます。
最大の問題は、ヤル気がないことです。私は、画質に注力し、BDオーディオも再生できるプレイヤー専用機がパナソニックからも発売されることを期待しています。それは「テクニクス」ブランドの方がよいかもしれません。
テクニクスはオーディオ・ビジュアルの上級ブランドという位置付けがこれから必要でしょう。“Not only audio but also audio visual”を望みたいと思います。
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