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ハイレゾの“空気感”を再現する極上のイヤフォン――ソニー「XBA-Z5」誕生の軌跡(3/3 ページ)

» 2014年10月22日 12時06分 公開
[山本敦,ITmedia]
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 「Z5」が搭載する16ミリ口径のダイナミックドライバーには、ヘッドフォンのフラグシップモデルである「MDR-Z7」にも新しく採用されている「アルミニウムコートLCP振動板」が使われている。なお「A3」にはコーティングなしのLCP(液晶ポリマー)振動板を搭載した。

 「Z5の開発を始める段階で、LCP振動板をさらに進化させることが1つの課題になりました。イヤフォンやヘッドフォンの振動板に使う素材は内部損失が高いことが良いとされています。LCP自体はもともと内部損失が高いことを特徴としている素材ですが、さらに全ての帯域においてよりクリアでスムーズな音を再現するため、特性の異なる材料であるアルミニウムをコーティングしたところ、相互作用によってLCPの良い特性をさらに伸ばすことができました」(鈴木氏)。

ケーブルは着脱式。コネクターの種類はMMCX

 「Z5」では付属のバランス接続用ケーブルを使って、同社の新製品「PHA-3」などバランス駆動のポータブルヘッドフォンアンプに接続してより高品位なサウンドが楽しめることも特徴だ。XBAシリーズではケーブル自体の音質にもこだわったと鈴木氏は説明する。従来モデルから高純度のOFCリッツ線を採用していたが、今回のモデルではさらに銀コートをかけて、より滑らかな高域再生を実現した。ケーブル内部もL/R各チャンネルのグランドを分離した4芯構造として左右のセパレーションを改善し、豊かな音の広がり感やタイトな低域の再現を可能にした。

ソニーのポタアン「PHA-3」とのバランス接続に使える専用ケーブルを付属する

NYのスタジオエンジニアの声も反映させた“鮮度”重視の音づくり

 サウンドのチューニングはどのように進められてきたのだろうか。鈴木氏と和田氏に訊ねてみた。

 「アンプのリファレンスには据え置き型のコンポーネントを使ったり、Z5の開発中はまだPHA-3が試作段階だったので、ポタアンにはPHA-2も組み合わせました。ただ、基本的なコンセプトとしてはソニー以外のどんなアンプでも等しく狙った音を再現できることを目指しています」という鈴木氏。さまざまなアンプに組み合わせて聴いてみても、アンプの素性をストレートに引き出すイヤフォンだと感じる。

 リファレンスの音源には色々な作品を用意して聴いているという。開発者個人が愛聴する作品をベースにチューニングする機会ももちろんあるが、一方では「イヤフォンの音を決める際に難しいところなのですが、スピーカーのリスニングテストのようにその場にいるスタッフが同じ音を一緒に聴くことができないので、イヤフォン・ヘッドフォンの評価にはスタッフが共通のものさしにできるリファレンス音源も用意しています。またソニーミュージックのヒット作品でどう聴こえるかというポイントについてもチェックしています。今年の作品であればマイケル・ジャクソンの『XSCAPE』や、ダフト・パンクの『Random Access Memories』などのアルバムはよく使っています」(和田氏)。

 「リファレンスはハイレゾ音源だけに限っているわけではありません。CDリッピングのソースも含めて、より多くの方々が色んなプレーヤーをつないで聴いても最高のサウンドが楽しめるイヤフォンとして、Z5の音質を磨き上げてきました」と鈴木氏は語る。なるほど、iPod touchでCDリッピングのソースを聴いても、鈴木氏が言うところの「空気感」の緻密な再現と、緊張感がみなぎるサウンドが不思議と同じ感覚で味わえる。

 XBAシリーズの音質評価には、米ニューヨークの録音スタジオで活躍するプロのエンジニアの声も反映されているという。「私たちが完成した試作機をニューヨークのスタジオに持参して、現場にいるスタジオエンジニアに試聴してもらいました。彼らからアドバイスを得て、開発現場に持ち帰った後でさらに作り込むという作業を繰り返しながら音を練り上げてきました」(鈴木氏)。

 一方で外部からの評価に頼りすぎてしまうと、音づくりの基準がぶれてしまう恐れはなかったのだろうか? 和田氏はこう切り返す。「ソニーでは“空気感を再現すること”に代表されるような、音づくりの絶対的なテーマがあります。その基準をしっかりと持ちながら、アドバイスを参考にするというスタイルなので、最終的に音のコンセプトがブレることは絶対にありません」。

 録音スタジオのエンジニアに生の声を聞くことの意味について、和田氏は説明を付け加える。「理由はソニーのヘッドフォン/イヤフォンが、音楽再生の“鮮度”にもこだわっているからです。録音現場の最前線で活躍されているスタジオエンジニアは、音楽が目の前で生まれる最もフレッシュな状態に日々触れている方々です。生の体験がもたらす感動を、ソニーのヘッドフォンやイヤフォンを使うユーザーの耳元に届けたいと考えたことから、現場の声を聞くという手法を『MDR-1R』の頃に確立して、その後のモデルの音づくりに大きく影響しています。『原音』となるソースを、制作者の意図に近づけながら、ユーザーに気持ち良く聴いていただくことはとても大事なことです」。

ソニーのベストを詰め込んだ、長く愛用できるリファレンスモデル

最上位の「MDR-Z7」と「XBA-Z5」は“Made in Japan”にこだわった

 XBAシリーズのフラグシップであるZ5は、現在ソニーが持っている音楽再生の世界観をぐっと凝縮したモデルだ。「ソニーのフラグシップモデルをお待ちいただいた方々に、ようやくお届けできることをうれしく思っています」という和田氏。「屋内リスニングではMDR-Z7とPHA-3を組み合わせて、アウトドアでも最高の音が楽しめるイヤフォンとして贅沢に使っていただければと思います。もちろんZ5単体でも最高のクオリティーをお届けできる自信があります。デスクトップPCとヘッドフォンアンプの組み合わせで聴く方にもベストなイヤフォンになると思います。現在のトレンドを反映させた、ソニーの最新・最高の音をぜひさまざまな音楽で、多くの方々に楽しんでほしいと思います」。

 PHA-3とのバランス接続対応に代表される発展性の高さもこのイヤフォンの魅力的なポイントだと思う。あらゆる音楽ファンが長く使えるリファレンスとして注目したいイヤフォンが誕生した。

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