ルンバの形状や機能も、iRobotの哲学を体現しているという。アングル氏は、人が家具をどかしたり、電源コードをさばきながら室内を掃除する映像を見せながら「掃除機をかけるという行為は知性が求められる」と話した。
「ロボットは何をするべきなのか? われわれが設計時に重視するのは、例えば家具を動かすことができないのなら、家具を動かさなくてもいい大きさにすることだ」。このため、ルンバは、ベッドなどの下に入り込める背の高さで、家具にぶつかってもひっかかりにくい丸いボディーを採用している。
ロボットが、じゅうたんに絡まらないことも重要だという。「人であればカーペットを避けたり、どかしたりできるが、ロボットはそれができない。ルンバの場合はしっかり乗り越えられる脚(タイヤ)を持ち、仮に絡まった場合には“逆進”して絡まりをほどく。これはルンバならではの機能だ」。
もう1つ同社が重視しているのは、ロボットが部屋全体をくまなく掃除すること。「キャニスター式の大きな掃除機でも1度でゴミを取り切ることは容易ではない。そして人は、ゴミが残っていると分かれば掃除機をかけ直すだろう。ロボットも当然“一度ではとれない”と考えれば、ゴミを検知し、掃除をし直す機能が求められる。そうでなければ掃除をしたことにはならない」。
さらに2月に発表した最新型「ルンバ800シリーズ」のメンテナンス性にも触れた。800シリーズの新しい吸引機構は、従来のブラシに変えて柔軟な素材の「AeroForceエクストラクター」を採用。髪の毛などが絡まない仕組みを作り上げた。ブラシに長い髪の毛が絡まると、ユーザーはロボット掃除機からブラシを取り外し、ハサミなどを使って絡まった毛を取り除かなければならないが、その手間を解消したのが新しい800シリーズだ。
「ロボット自体の掃除やメンテナンスなど、誰だってできればやりたくはない。普通の掃除機ではゴミが絡まったら人が取り除くが、われわれのロボット掃除機はそれも必要ない。“購入したらもう、触らなくていいですよ”ということを約束する」(同氏)。
なお、他社が進めているSLAMなど高機能化については、「iRobotもSLAMの技術は持っているし、ビジュアルのSLAM分野ではパイオニアといえる。ただし、その能力を損なうことなく家庭用ロボット掃除機に搭載できる段階に達するまで、ルンバに搭載されることはない。なぜなら、われわれの哲学において最もプライオリティーが高いのは、掃除のパフォーマンスだからだ」と話している。
日本では相次ぐ新規参入によってロボット掃除機市場はにわかに活性化しているが、アングル氏によるとiRobotに強力なライバルが存在する状況は決して珍しくないという。ロボット掃除機は12年前に誕生し、近年は成長率20%超の注目分野。2013年は金額ベースで全掃除機市場の18%がロボットタイプになった。
もちろん過去12年の間には、いくつもの大手家電メーカーが参入を試みたが、「最初は注目されるが、消えていくことを繰り返した」という。結果として同社は着実に売上げを伸ばし、累計1200万台を出荷。現在もロボット掃除機市場の74%をiRobotや前述のNeato Roboticsなど“ロボット専業メーカー”が占めている。
ということは、ロボットにフォーカスしている会社は大手家電メーカーに比べて何らかの優位性があるのだろう。「おそらく、大手家電メーカーは既存の製品をベースに、それを自動化するアプローチだと思う。しかし、ロボット会社はより野心的。単なる機能追加がゴールではなく、どうしたら既存製品を置きかえられるのか? と考える」とアングル氏。つまりロボット掃除機を“自動化した掃除機”と捉えるか、“人の代わりにロボットが操る掃除機”と捉えるかの違いだという。
「操作をする人間のロボットバージョンを作ることは難しい。だからこそ、人にフォーカスし、いかに効率よく掃除するかを考えることがiRobotの強みだ」(アングル氏)。
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