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すべては人を助けるため――iRobotのロボット哲学iRobot研究(2)(2/2 ページ)

» 2015年03月06日 16時45分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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開発が進む3つの新ジャンル

 ここまでは現在のiRobot製品を紹介してきたが、今後はどのような製品が登場してくるのだろうか。ヒントになるのは、同社が技術開発で力を入れている3つの分野。それは「navigation」(ナビゲーション)、「manipulation」(マニュピレーション)、そして「perception」(パーセプション)だ。

 navigationは、各種のセンサーから取得した情報を基に、ロボットが自分の居場所を推定すると同時に、活動エリアのマップを作成する技術。ロボットがスムーズに移動し、目的を果たすためのカギとなる。前述の「エイバ」のように、「ルンバ」や「ブラーバ」よりも高精度なナビゲーションシステムを採用したロボットも登場している。エイバはオフィスや工場など、人が移動する空間で活躍するロボットだ。

「Ava 500」(エイバ)

 マニュピレーションの分野では、多くの進化の余地が残されている。例えば家の中にある物――軽い物や繊細なものを壊すことなく持ち上げたり、機械を操作したりすることは難しい。そこでiRobotの研究室では、表面がメッシュ状になったバルーンのようなマニピュレーターを用い、バキューム(空気を吸い込む力)で多種多様なものをつかむ技術が開発されている。卵や水の入ったコップも割ることなく持ち上げ、人に飲ませることもできる優れもので、バーベルのような重いものも持ち上げられるという。もちろん、そのために持ち上げる対象物の大きさや重さなどの情報を検知し、バルーンで最もフィットする形状を作り出し、グリップする力や動き、その角度までを正確に割り出す能力を持っているのだ。

 3つめのパーセプションとは、“物を認識する”ための技術。例えば、将来の家庭用掃除ロボットにとって、室内で“椅子”を認識できるとメリットが大きい。ロボットにとっては障害物だが、仮にアームとマニピュレーターを持っているロボットであれば、大きな家具と違い、移動してその下を掃除できる可能性が高いからだ。しかし、椅子にはさまざまな形状があり、現状でロボットが認識することは困難。足が4本あるだけで椅子と判断して良いのか、あるいは他の判断基準があるのか。iRobotでは、より効率的で確実な手法を研究をしている。

「PackBot」のマニピュレーター

 福島第一原発で活動した「510 PackBot」は180センチ以上に延びるカメラ付きアームを搭載し、原子炉建屋の中で情報を収集した。また最新の大型ロボット「710 Kobra」では、さらに大きくなったアームを使って建物内のドアを開けたり、重量物を持ち上げたりすることができる。これもマニュピレーション研究の成果だ。ただし、ロボットが見たものを認識(パーセプション)する部分は、今のところ人の目に任されている。技術開発を進める戸同時に、現状ではより現実的な回答を選ぶのもiRobot流だ。

「最小のヒューマノイドロボット」

 こと日本国内では「人の居住空間で活動するロボットは、人間型(ヒューマノイド)が最適」という意見を持つ人が多い。もちろん、それも1つの真理だが、それは何でもこなせる“汎用型ロボット”が作れる段階になってからでも遅くはないだろう。

 iRobotのように、あるミッションに特化したロボットは、人と同じ形状をしている必要はない。ミッションの幅が広がっても、必要な機能さえ持っていればいい。その証拠に、「710 Kobra」は可動式キャタピラーで階段を下り、大きな障害物を乗り越え、あるいはアームで取り除きながら人の代わりに危険な作業をこなせる。

「710 Kobra」

 iRobotのコリン・アングルCEOは、昨年明治大学で講演した際、「710 Kobra」を「最小のヒューマノイドロボット」と紹介した。形は異なっても“人と同じことができる”という自信の表れであり、ともすれば“人型”にこだわる日本人へのアドバイスだったのかもしれない。

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