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ワクワクが止まらない! 次世代技術で前進する映像文化の近未来麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2015年06月24日 13時32分 公開
[天野透ITmedia]

MMT技術はハイレゾ音声放送の光となるか

麻倉氏:8K放送を見据えた技術としては、ハイブリットキャストとMMTも興味深かったです。ハイブリッドキャストに関しては、去年の技研公開、つまり今の2K用のものとは違って、アプリの幅がとても広かったです。

――2Kと8Kで、周辺サービスに違いが出てくるとは驚きです。具体的にはどういうところに差があったのでしょうか?

麻倉氏:8Kはとにかく高精細で画質が良いので、その中の一部をサブ画面として切り取っても、サブ画面そのものが2Kくらいの解像度を持っているんですね。そういう意味で「これはかなり面白い切り口があるな」という気がしました。

 今回の新しい展開は、マルチカメラのハイブリッドキャストです。タブレットで4つのカメラ映像の中から自分の見たいもの選ぶと大画面に大きく展開されるという、とてもシンプルなものです。解像度の高さを利用した、8Kならではの分かりやすいハイブリッドキャストのサービスイメージが提示されていました。サービスに関しても、昨年より遥かに絞りこまれています。去年の方が8Kを使ったいろいろな展開が見られたが、今年はマルチカメラに焦点が絞られ、実用化のほうに近づいていると感じました。

――映像の一部をリアルタイムで任意に拡大できるとは、何だかハリウッド映画で見る「作戦室」の様なイメージですね。未来がすぐそこまでやって来ているのだと実感させられます

マルチモニターの運用イメージ。スポーツの他、アイドルグループのライブコンテンツなどでも威力を発揮する

タブレットサイズなら、家族と同じものを「自分専用放送」にカズタマイズすることもできる

麻倉氏:もう1つハイブリッドキャストとは異なる、もっと高性能な伝送技術のMMTの展示がありました。MMTとはMpeg Media Transportのことで、これは私が大変期待している技術なんです。これまで本線の映像・音声を送るのは放送波に限られていて、ハイブリッドキャストではネットという別回線で映像が来る、という構造になっていました。それに対してMMTは、放送と通信がはじめから完全に連携しています。放送と通信が2つあって、初めてサービスができるのがMMTです。今までは放送メインで通信がサブだったが、MMTは両者が連携して同時にサービスをしようという、従来とは全く別の考え方なのです。具体的にはブラウザーベースのハイブリッドキャストに対して、もっと基本のレイヤーで処理するハードベースのMMTという違いです。

――放送業界では「TVとネットの融合」が盛んに叫ばれていましたが、それが現実的なサービスとして提案されてきたという訳ですね。では放送とネットが主従ではなく対等な関係になると、どんな良い事があるんですか?

麻倉氏:例えば別線の映像が来るとか、同じ映像であってもユーザーが選ぶ個人向けのCMを流すとかいった、さまざまな展開が期待できます。今回の展示ではNTTとJCOMの通信回線を使い、それぞれサーバーから送った映像と、放送で受けた映像を同時に流していました。

 中でも私がとても期待しているのはハイレゾ音声です。このようにハイレゾがもてはやされている時代にもかかわらず、次世代放送はハイレゾではないというのが決まっていました。放送の中では、48kHz/24bitの解像度は従来通りで、コーデックにはAACを使います。ただ唯一、SHVではALSというロスレスコーデックが入ったというのが、AACに対する優位なのですが、それにしたってハイレゾではありません。

「じゃあハイレゾは、次世代放送の音声仕様では全く実現しないか」というと、実はそうではないんですね。放送の規定にはありませんが、ハイレゾ音声の運用にMMTを使うというやり方が検討されているんです。つまり音声の中核部分には、いわゆる“ローレゾ”の48kHz/24bitなどが放送で流されます。それに加えて、例えば96kHz/24bitとか、DSDも含めたサブ音声をMMTの通信側で送ります。それが同期されて1本のサービスストリームに融合され、テレビ側でデコードをします。この方法を使えばハイレゾ放送も可能になります。

――SHVの規格が発表された時には、音声品質が現行のものとそう変わらないので、ひどくガッカリしたことを覚えています。でもこの方法を使えば、映像だけでなく音声も高品質な放送を楽しめますね。音楽番組などが楽しみです

麻倉氏:例えばシアターで公開されたN響「悲愴交響曲」は、絵も良かったですが同時に音もとても良かったです。おそらくハイレゾ収録でしょうが、この体験は非常に貴重です。映像が良くなると同時に音声の方も良くなって、映像も音もハイレゾになるというのが理想的なカタチです。SHVの規格発表ではこの理想が一旦閉ざされたように思われたのですが、MMTを上手く使えばハイレゾ放送も決して不可能ではないということが分かってきました。画だけではなく音も良くなる可能性があるというのが、今回見える新しい展開だなと感じました。

――放送で流れてくる最新のコンテンツがハイレゾのシアター品質になるとは、本当に夢の様な話です! パッケージ化されないコンテンツもたくさんありますよね。そんなお宝コンテンツが高品質で楽しめるのは、とても嬉しいですね。

麻倉氏:こうなってくると、テレビそのものの音が問われてきます。今のテレビは音声システムが非常にプアな状況に陥っているのですが、それではコンテンツが持っている内容を正しく再現することが出来ません。そうではなく、ハイレゾ再生を初めから考えておかないと、これからの8Kテレビはもはやありえないのではないかという気もしてきます。

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