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日本でも視聴できる!――映画の街で見つけた最新4Kコンテンツの感動ポイント麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/5 ページ)

» 2015年08月27日 18時20分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:旅番組というと、観光地の風景や食事といった、旅程の映像を切り取って届けるというスタイルが一般的です。今回見た番組は、そういった旅情報だけではなくて、見る人を旅に行かせたいと思わせるような、印象的なコントラストや刺激的で非常に濃い色が散りばめられていました。例えば「空はより蒼い」「海は碧い」「緑はより翠」といった色を強調することによって「旅に行きたい」という思いを喚起させ、視聴者を旅へ誘うという制作方針です。こういった思いを届けるのに4Kは凄く合っていますね。

――言葉にならない感情を視覚表現によって届けるという、映像文化の本質を突く制作スタイルですね。4K化による精細度の向上は、単なる技術革新に留まらず、その先にある「人間の感動へよりダイレクトにアクセスする」という、旅本来の目的に強く結び付くと感じます

インド、トラベルXP制作の旅もの4K。旅に誘う、鮮やかな記憶色が印象的

麻倉氏:この番組では「4K技術をどう使うか」という点が非常によく考えられていました。日本の4K番組では一般的に「放送は公平・中立にあるものを伝えるべし」という不文律の立場があるため、「本来あるべき正しい姿を記録・再現しよう」という客観的な制作方針になりがちですが、インドのものは、番組のコンセプトや目的に合った4Kの使い方というものが良く出ていたと思います。インド的というか。

 制作としてはRAWで撮影してグレーディングし、そこで色彩設計をするという工程ですので、単なる記録ではなく、記憶色、望み色という色の再現が可能です。今回観たものは、このような4Kにおける撮影と編集のテクニックを縦横に使った“旅誘引番組”、“没入番組”になっていました。そういうコンテンツも4Kを使うと可能になります。とても面白いですね。

 例えば昨年の発表では、NHKの自然科学班がグレート・バリアリーフを撮影したコンテンツがありました。2Kで撮影したサンゴ礁の海中は太陽光が遮られた緑一色の世界でしたが、RAWデータには色の要素がキチンと残っているので、グレーディングをかけることで赤や黄色がグワッと出てきます。

――デジタルスチルカメラの世界でも、JPEGではツブれてしまう部分が、RAWデータを現像すると色が出てくるということはよくあります

麻倉氏:グレーディングにおける番組作りというか、方向性というのが凄く合うなということを、昨年はNHKが発表したもので感じました。対して今年はインド・トラベルXPのものが大変印象的でした。

 もう1つ、4Kの注目ジャンルをご紹介しましょう。クラシックやポップスのライブコンテンツといった「音楽モノ」は、4K時代の重要なジャンルになります。

――音と映像の融合は、麻倉さんが長年取り組み続けているテーマですね

麻倉氏:音楽だけだったらCDや音楽配信で済みますが、音楽モノは音に映像がつくことで現場感覚や臨場感、音楽の素晴らしさが喚起されます。それは先ほどの旅チャンネルではないですが、色のエモーションやコントラストにおけるエモーションが音楽と一体になることにより、音楽も引き立ち、トータルでエンターテイメントになるのです。

 有名な音楽祭「モントリオールフェスティバル」が4Kにチャレンジしました。この音楽祭は映像記録にも熱心なことで有名で、これまでは2Kでしたが、今回は試験的にソニーのCineAltaカメラ「PMW- F55」を使用して4K撮影を行いました。4K制作は初めてでスタッフが経験不足なため、残念ながら出てきた画は光源不足で薄めといまいちだったのですが「演奏や会場のエモーションを映像化できるのが4Kだと分かったので、これからは4Kをレギュラーに使っていきたい」と、前向きな意見が聞かれました。

4Kで分かるムチムチクオリティー(?)

――クラシックで4Kプログラムというと、ベルリンフィルがソニーと協業して、銀座などで映像を披露したこともありました。クラシック音楽の愛好家はクオリティーに対する要求も高いので、4Kが望まれるジャンルといえそうですね

麻倉氏:あれは素晴らしかったですね。音もDSDでした。4K化の波はクラシックにとどまりません。英国のThe Farm Groupは、シドニーのスタジアムで世界的な人気シンガーであるケーティー・ペリーさんのライブを撮影しました。合計16台のカメラを駆使しての大規模な中継作戦です。

 4Kで見ると、緑のコスチュームをまとった“ムチムチお姉ちゃん”の肉感といか、そういうところが2Kと4Kでは随分と違いますね。中から出てくるオーラのような、後光のような“ムチムチクオリティー”で、「やはり4Kは凄い」。まるで画の中に入り込んでしまうような錯覚をおぼえました。BBCやSKYチャンネル4K、DIRECTVなど、欧米のメディアに供給する予定とのことです。

――“ムチムチクオリティ”ですか(笑)。解像度が上がった効果を「ベールをはいだような」という言葉でよく表現しますが、それだけにとどまらない実体感や雰囲気によ“ムチムチ”の表現というものを、ぜひ体感したいです。

イギリスのポストプロダクション、The Farm Groupが制作したケーティー・ペリーのライブ

麻倉氏:日本のコンテンツも見てみましょう。スカパーJSAT制作で、ハービー・ハンコックが昨年9月に「ブルーノート東京」で行った演奏プログラムが素晴らしかったです。淡くドライな感じのモントリオールと違い、ウェットで質感が良いですね。特にピアノの反射が素晴らしい。会場の光やディテールの臨場感も良く、鮮明な映像でした。

――ブルーノート東京のライブというと、数年前までBSフジが放送していた「Speak in Music」という番組が思い出されます。ハンク・ジョーンズやロン・カーター、キャンディ・ダルファー、ホリー・コールといった、さまざまなジャンルのライブを放送するプログラムでした。ナビゲーターのジョン・カビラさんと土岐麻子さんという異色の組み合わせも面白く、個人的には是非とも復活してほしい番組です

麻倉氏:あの番組は良かったですね。ブルーノート東京はもともとリッチな照明環境なので、収録にあたって特別なセッティングはしていないということですが、そういうジャズクラブの雰囲気は今回のプログラムでもしっかり捉えられていました。できあがった映像はハービーさんも気に入ったようで、早速4Kテレビを導入した模様です。「是非ともファイルをHDDでください」と言うので、ブルーノート側がプレゼントしたそうですが、果たしてスンナリと再生できたのかは疑問ですね。おそらく非圧縮DPX形式で渡したと思われますので、さてそれをどうやって再生するのでしょう?

――4Kネイティブ再生ができる機材自体が多くないですから、業務用フォーマットとなるとPCくらいしか思いつかないですね

スカパーJSAT制作のハービー・ハンコックのブルーノート東京ライブ。しっかりとした4K映像だ

麻倉氏:カンヌの4Kカンファレンスで出会ったとてもいい番組として、スペイン・メディナメディアの「フラメンコ・パッション」は是非とも紹介したいです。今年前半にセビリアで行われたフラメンコ大会を収録したもので、同社にとって初めての4K制作だったとのことですが、セビリアの大聖堂や、フラメンコ大会の盛り上がり方、ダンスの名人芸などがとても素晴らしいと感じました。

――鮮やかな衣装をまとって軽快にリズムを刻むフラメンコは、音と映像とで魅せる4K音楽番組として、まさにもってこいのコンテンツですね

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