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日本でも視聴できる!――映画の街で見つけた最新4Kコンテンツの感動ポイント麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2015年08月27日 18時20分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:画的な部分では当然スポーツの躍動感やエモーションが盛り上がりますが、それ以上にこの番組の見どころはスタッフの技量です。カメラの使い方やフォーカスの取り方、スロー撮影のクオリティーやドローンの使い方、特に高速度撮影は素晴らしいですね。スローが入らないと一瞬でクルクル回ってお終いで、なんだかよく分からないうちにバイクが着地してしまいますが、高速度撮影することで、超人的な技をしっかりと捉えています。

 本格的な高速度撮影は「FT-ONE」という毎秒900コマ撮影が可能な専用カメラを使いますが、今回の映像はおそらくカメラ内の高速度撮影機能を使っていると思われます。それでもゆっくりとした動きの中で選手の技量が伝わってきますね。ここで難しいのが、やはりフォーカシングです。ピントが合っていないと通常でもズッコケるのですが、高速度撮影でゆっくりとした速度の時にアウトフォーカスでは、何が何だかサッパリ分かりません。このプログラムでは、最新の機材で的確なフォーカシングされており、非常に感心しました。撮影を手がけたのはフランスのFAST Fokusで、こちらもやはり今回が初めての4K撮影とのことです。ですが、初めてとは思えない画の作りの良さ、安定感、的確さを持っていますね。

 ヨーロッパでは通常4Kの場合、毎秒25フレームで撮影しますが、今回の映像は120フレームです。凄いのは、なんとこれを望遠レンズで撮っていること。カメラと被写体アクションの位置は決まっているので、綿密に準備しておけばきちんとしたピントは確かに出ます。それにしても画角が小さく、映る範囲が狭い望遠レンズを使って、高速度撮影してフォーカスが決まるというのが実にハイテクニックです。

 1つ不思議に思ったことがあります。今回の映像はドローンの画でなぜか画質的な解像度が高いんです。ドローンを使った空撮は近年増えてきましたが、浮力の関係でスタジオカメラのような重い高級機材は使えません。そのため4K撮影では、パナソニックの「DMC-GH4」など、デジタルスチルカメラの動画機能がよく用いられます。ドローン撮影のポイントは、ドローンでしか撮れないアングルがあることです。飛び上がった時の頂点のアングルは地上からは撮れず、また、クレーンよりも機動力に勝るため、ドローンの効果が発揮されています。4Kというと映像の話になりがちですが、このような「制作側の苦労を楽しむ」という見方もあるのだなと、今回の映像を見て感じました。

「MTBヒーロー」の一コマ。ニュルンベルクのフラウエン教会をバックに、過激なアクロバット技を披露するライダーを的確に捉えた

――ヨーロッパはモータースポーツや自転車レースが盛んで、フランスではツール・ド・フランスやパリ・ダカール・ラリー、ル・マン24時間レースなどがありますよね。今年5月に千葉で行われた「レッドブル・エアレース」という航空レースなどもあり、レース文化が根付いていて速い被写体を撮るのに慣れていると感じます。F1やMoto GPなどのような凄い動きで、しっかりとピントを取っていますよね。そういったところがしっかりと生かされているのではないでしょうか

麻倉氏:そうですね。うって変わって、クラシックコンサートも紹介しましょう。チェコで開かれた演奏会で、2013年にチェコのKM PLUS Mediaが制作しました。指揮はヤンスク・カヴィッツェの息子、バフダング・カヴィッツェで、ジョージア(旧グルジア)・トビリシ交響楽団の演奏です。

 このコンテンツのテーマは「目で楽しむ音楽会」です。オーケストラの映像なので、躍動感というよりは、演奏の仕方や会場の雰囲気、臨場感、コンサートホールで聴いているような聞こえ方や興味の持ち方を、4Kテレビを見ながら再現し、同じような形で吸い込まれていくという感じですね。放送は残念ながら2ch音声ですが、元々は5.1chで録られています。5.1chで聴くと、映像で見る臨場感と音で聴く臨場感が巧みに融合し、会場にいるかのようです。会場では自分が座った一定の席からしか演奏を見ることができないのですが、映像は会場で見る以上の、カメラワークによる臨場感を得られます。ここが録画の素晴らしい点ですね。

――確かに、指揮者や奏者の機微を前から後ろからクローズアップする画と、会場全体をゆったり眺める画は、映像でないと同時に楽しむことはできません。

麻倉氏:第三楽章冒頭のメロディーが、エリック・カルメンの大ヒット曲「恋にノータッチ」という曲で有名な旋律です。非常にディープで、ゆったりとした弦で表される、ラフマニノフらしいとても息の長いロマンティックなメロディーですが、今回はこの第3楽章と第4楽章を中心に観ました。

 4Kで見ると、弦楽器の飴色の反射感や服の質感が実にリアルで、斜めからの撮影では、1つのパートの中で手前、中継、奥という奥行きのパースなどがよく分かります。映像で音楽の生まれ出る画を見て、そこに音楽を聴くというのは、とても特別な体験です。音楽だけでも感動しますが、そこに映像が加わると、4Kの解像度を持っているパワー感がグッと出てきます。

 カメラワークも重要です。一時、特にSD時代にヨーロッパの音楽映像は動いて飛んでズームで寄って引いてといったように、「なんでこんなに動かないといけないの」というくらい非常に動きが激しかったことがありました。

――音楽や演劇といった舞台映像であまりカメラが動きすぎると、舞台に集中できなくなって困りますね。主役は舞台のはずなのに、カメラの過大な自己主張が邪魔をしてしまい、まるで調味料を使いすぎた料理を食べているように感じます

麻倉氏:ですがこのラフマニノフの4Kの場合、音楽自体がゆったりしているので、それに合わせて映像の流れも実にゆつくりしています。単に画質が良いというだけでなく、特に音楽作品の場合、音楽に寄り添ったカメラワーク、スイッチングをしているかがポイントです。「静かな4K」としてよく出来ている作品ですね。4Kのある部分を的確に捉えていると感じました。

 これらの番組はJ:COMと契約し、セットトップボックスを入手、そして4Kテレビを導入することで視聴できます。あと2つも上質な番組を用意しましたので、4K映像の表現力を是非ご覧ください。なお、まだまだサービス初期でユーザーもあまり多くないということで、より大勢の方に観てもらうために2Kダウンコンバートでも配信するそうです。4K環境はまだという方は、まず2Kで番組の雰囲気を楽しんでもらい、さらに深い表現を楽しんでいたたくために4Kを導入するのも良い作戦だと思います。

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