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大切なのは技術より“使う人にとっての価値”――開発担当者に聞く「ルンバ980」滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)

» 2015年10月09日 20時50分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

掃除力アップの秘密

 「ルンバ980」は「iAdapt 2.0 with Visual Localization」により地図を作成することで、既存のルンバの経験則的な動作に加え、よりインテリジェントに動けることが分かった。しかし、これまでは平均4回も同じ場所を通って掃除していたのに対し、「ルンバ980」は同じ場所を1度しか通らない。床は本当にきれいになるのだろうか?

ルンバが作った地図のイメージ

 「そのために吸引力を高めるべく、採用したのが『ハイパワーモーターユニットG3』です。従来機と比較して吸引力が10倍、清掃性能自身も2倍に高まりました」

 出力の高いモーターを変えただけで、そんなに吸引性能が上がるものなのだろうか? それなら、もっと出力の高い大型モーターを積むことも考えられたのではないだろうか? バゼドーラ氏が続ける。

 「ロボットシステムを設計するにあたり、もっとも重要なことは、各パラメータのバランスをとることです。バッテリーのパワー、エネルギー消費量、本体サイズ、さらに吸引力の強さ、それぞれのバランスがしっかり取れていないと実用的なロボットにはなりません。ルンバの場合、これまでの動きを変えた分、『ハイパワーモーターユニットG3』で吸引力を強める必要がありました。とはいえ、それだけで10倍の吸引力を達成できたわけではありません。エアロフォースをなるべく効率良く生み出すために、流入路に従来機とは違う改良を加えたり、『ハイパワーモーターユニットG3』をダストボックス内に斜めに配置したのもそのためです。そうすること流入路とインペラーが直線的に結ばれ、空気のロスが減るのです」

 同時に広範囲(長時間)の掃除というミッションもロボット掃除機にとっては必要な要素だ。「エネルギー消費をなるべく減らす努力をしました。そこで生み出されたのが、『カーペットブースト』機能であり、『ダートディテクトモード』です」

 「カーペットブースト」は、「ルンバ980」がカーペットやラグマットの上にくると自動的に吸引力を引き上げるというもの。一方の「ダートディテクトモード」は、センサーが“ゴミが多い”と判断した場所で前後に移動して念入りに掃除するという機能だ。ゴミの少ないところ、ゴミを吸い取りやすいところで吸引力を高める必要はないが、ゴミが吸い取りづらいところや、異常に汚れている場所では吸引力を高めたり、繰り返し掃除する必要がある。これは人間が掃除する場合でも同じ感覚だろう。

 「ハードフロア、つまりフローリングなどは塵やホコリが固い面にのっかっているため吸引力をそこまで高めず、一度通っただけでも簡単にきれいになります。一方、カーペットはそうはいきません。毛の奥にまでゴミが入り込んでいたり、時には髪の毛が絡まってたりします。そこではカーペットブースト機能を働かせ、最大10倍の吸引力で根こそぎそれらを集塵します。あとはフローリングなどでも極端に汚れているところはセンサーが汚れを検知するとダートディテクトモードが働き、何度もその場所を前後するように動いて、最終的にゴミをすべて吸引するのです」

畳の上ではどう動く?

 1つ疑問に感じるのは、「ルンバ980」が現状どういった素材のフロアにいるのかをいかに検知しているか。バゼドーラ氏はそれにも明快に答えてくれた。「路面の判断は実はフロアトラッキングセンサーでもタイヤの摩擦でもなく、『AeroForce エクストラクター』で行っています。ゴミを吸い上げるのに必要なパワーやエネルギーをセンサーで検知して、その大きさから床面の素材を検知するというアルゴリズムを開発しました。フローリングの上では、『AeroForce エクストラクター』との距離が少し空くのに対し、絨毯(じゅうたん)の場合はタイヤが沈み込むため、フロアとの距離が縮まります。フローリングの場合、空気の流入がスムーズであるのに対し、絨毯は地面との距離が近く空気の流入速度が弱まります。その違いによりエネルギーの大きさが変わるので、適材適所、用途にあった吸引力を実現できるのです」


 では、日本の住居独特の畳に関してはどのような処理をしているのだろうか? 「日本の住居にある畳は、フローリングと比べるとやや(ルンバの)本体が沈み込むため、どちらかといえば絨毯にいるのと同じ動きをするので、カーペットブーストが効くはずです。これも『ルンバ980』が自分で判断している結果ですが、あまり畳は強い吸引力で吸い込む必要がないと思われる場合には、アプリでエコモードなどに設定していただくなど、回避する方法もちゃんとチョイスできるようになっています」

発表会場では畳を含むさまざまな床を掃除してみせた

 「ルンバ980」は、自分でしっかり判断できるのはもちろん、ユーザーの指示をスマホ経由でしっかりと受け取り、動かすことができる万能ロボット掃除機だ。だから、仮に1度しか通らないのは不安だという場合には、1カ所を2回以上通る動きもさせることもできるようになっている。

 「実際、動かす前はそのように不安を持たれる方は多いはずです。実際に開発途中のベータユーザー(社員やモニター、意見を聞くための限定的なユーザー)にもそういった方々はいました。とくにこれまでのルンバを使っている方が、そうした印象を持たれるのは仕方ないと思います。でも、実際に検証したのですが、『ルンバ980』の清掃性能というのは本当に高く、従来の『ルンバ800』シリーズが3回走らせて集塵するゴミの量より、『ルンバ980』が1回通っただけで集塵したゴミの量のが多いという結果が出ているのです。ですから、大多数のベータユーザーは最終的に『ルンバ980』を1度しか通らないベーシックな動きに戻しましたね」

 また、効率性を随所にわたり追求している『ルンバ980』だから、一度通った場所を移動する場合は吸引力をゼロにするという考え方もありだとは思うのだが、実際はどうなのだろうか?

 「実はそうすることも考えたのですが、ゼロにしてしまうとユーザーが混乱をするおそれがあると思い、実行しませんでした。故障と勘違いされる方もいると思いましたので。そのために、例えば一度通った場所を通り過ぎる場合は、最短経路を辿ることで、なるべく吸引力をロスしないように、動きのほうでエネルギー消費を抑えています」

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