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BRAUNが「家電デザインのルーツ」といわれる理由滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/4 ページ)

» 2015年10月21日 00時05分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

理由02――革新性

 家電デザインのルーツと呼ばれる2つ目の理由として重要なのが、その後の歴史から数多く垣間見える革新性、つまりイノベーションの数々だ。ブラウンはその時代、その時代で新しい技術が得られると、すぐにその技術を活用して新製品を作っていった。

 例えば、前述の「SK4」は、当時珍しい素材だったアクリル素材を初めて使い、天面から内側の機構を見せるという点が斬新だった。

1959年に発表された「TP1」。この当時にポータブルのレコードプレーヤー兼ラジオの「2 in 1」機を生み出していた

 また、「SK4」と並ぶディーター・ラムスのデザインチームが生み出したHi-Fiオーディオは、電源ボタンなど重要なボタンだけ緑色にするなど他のボタンと差別化していた。説明書を読まなくても、それが重要なボタンであることが分かり、さらにボタンを押す順番なども自然とガイドしてくれる配置になっている。こうしたシステムを考案したこともブラウンのイノベーションだ。

最初に押す電源ボタンに色をつけて差別化するなど、今では当たり前のデザイン言語も生み出しのはブラウンだった

 さらに1960年代以降の彼らの製品から、そんなイノベーションの例をいくつか挙げてみよう。

 1972年に出されたコーヒーマシーンの「KF 20」は、その斬新な塗装自体がイノベーションだった。それまでの塗装技術が未熟で、上記のHi-Fiオーディオで使われていた緑色などはややくすんでいる。しかし、徐々に技術が進むと、ブラウンはいち早く目をつけ、赤、オレンジ、黄色、緑、白といった斬新なカラーリングのコーヒーマシーンを生み出す。

「KF 20」

 同じ1972年にはシンプルでミニマムデザインのスクイーザー「MPZ-2」を発表した。実は現在でも市場にあるロングセラー製品で、スクイーザーでしぼると、そのまま下の口からレモンなどの汁が注がれる。通常は絞ったうえに、それを別の容器などに自分で注がないといけないが、これは絞るだけで、そのまま自然と注がれる。さらに下の口の先端をちょっと上げるだけで汁がたれてこない。こうした細かい配慮もイノベーションの1つといえるだろう。

「MPZ-2」

 今となってはシンプルすぎる1978年発表のドライヤー「PGC 1000」。当時ドライヤーというものは美容室で使われるもので、まだ一般家庭には普及していなかったが、ブラウンが家庭向けドライヤーを開発したことで状況は変わる。通常、美容師が人の頭を乾かす場合、ドライヤーの“取って”は本体よりも後方に傾いているものを使っていたが、家庭で自分に風をあてる場合には非常に使いにくい。というわけで、ドライヤーの取手の角度を前方に傾けたことがイノベーションとなった。これによってドライヤーが家庭に普及したといっても過言ではない。

ドライヤー「PGC 1000」

ドライヤーも時代によりイノベーションを積み重ねていったことが分かる展示。中央にはアイロンとドライヤーが融合したユニークな製品もある

 1962年発表のシェーバーは、外観の素材の組み合わせがイノベーション。ブラックのプラスチックと光沢のあるメタリック仕上げという、新たなブラウンデザインの始まりとなった。この配色自体が革新的で、後にブラウンの代名詞に。

「sixtant SM31」。ブラックのプラスチックと光沢のあるメタリック仕上げという、新たなブラウンデザインの始まりとなったシェーバー。この配色自体が革新的で、後にブラウンの代名詞に

 これらイノベーションを巻き起こすアイテムは、ディーター・ラムスの口癖である「レス・バット・ベター(より少なく、しかしより良く)」を表している好例である。それらは無駄や華飾のないミニマルで機能的なデザインで、問題の本質を凝視し、かつ解決策を実践している思想が具現化されたアイテムたちであり、その思想自体がイノベーションの礎と呼んでも過言ではない。しかもそれらはすべて普遍的、つまり時を感じさせないタイムレスなデザイン思想とも重なっていることに気づくはずだ。

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