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スピーカー設計の達人が作った平面駆動型ヘッドフォン―― MrSpeakers「ETHER」開発者インタビュー秋のヘッドフォン祭2015(2/3 ページ)

» 2015年10月24日 15時24分 公開
[山本敦ITmedia]

オーディオ信号が入力されるとフラットな形になる「V-Planner」振動板

 一般的な平面駆動型ドライバーユニットの振動板は、平面性を維持したまま駆動すると思いこまれていたが、実際にはエッジ部分の境界線があたかもロックされたように固定されているため、結局は電磁力がかかった時にはアーチ状の曲線的な動きになってしまい、歪(ひずみ)や分割振動を引き起こす。これでは平面型振動板の特長が生かされないということに着目したクラーク氏は、平面駆動型の振動板の非線形歪を改善するため、1997年にBruce Thigpen氏が特許を取得したローレット加工の技術を平面駆動型振動版に採用する方向で開発を進め、遂にETHERシリーズでこれをヘッドホンに搭載することを実現した。

「平面型振動板の音が好き」というクラーク氏

 V-Plannerの振動板は、音楽信号が入力されていない状態ではリボンツィーターの振動板、あるいはアコーディオンの蛇腹のように細かく規則正しいパターンで並ぶ細かなギザギザの形状をしたプリーツが付けられている。オーディオ信号が入力されると、ギザギザのプリーツが開いてフラットになり、振動板の面積が広がって限りなく均一に垂直なモーションを実現する。平面駆動方式ならではの繊細でつながりの良いサウンドが再現できるという仕組みだ。「独自のプリーツを付けた形状によって振動板の追従性を高めることで、音楽信号に対する柔軟なレスポンスと安定した駆動が保てることが強みです。また過渡特性も高まり、オーディオ信号の入力に対して高速なレスポンスが得られるとともに、歪みの発生を抑えることができるメリットもあります」とクラーク氏はその効果を説明している。

クラーク氏の手描きによるV-Plannerの概念図。振動板のかたちが下側のように細かく波打っている

 振動板上には0.008インチ(0.2ミリ)の銅箔コイルを、振動板の片側に約9メートルの長さでエッジング処理により形成している。

 密閉型モデルのハウジングは強固で軽量なCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)を採用。さらにハウジングの中に3Dプリンターによって成形した独自形状のアコースティック回路を設けて、力強い低域の再現性を高めている。この音響回路の形状を、開放型と密閉型のモデルで別々のものに変えてチューニングしている。

開放型のエンクロージャー

 「ETHER Cについては、密閉型だけど開放型のような音をめざした」とクラーク氏が語るように、開放的で抜けの良い中高域と、芯が力強く余韻の広がり方が非常に爽やかで気持ちよい低域がスムーズにつながる独特なサウンド。とかく平面駆動型のヘッドフォンはニュートラルでバランス感覚に優れる特徴を持っているが、その反面、能率が低く、聴感上のアタック感や力強さに欠けると言われることもあるが、本機は音楽の繊細なニュアンスを引き出す柔の要素と、時に鋭く、荒々しく音楽のダイナミズムを表現する剛の要素を兼ね備えている。低域の減衰速度も速く、低域のリズムは切れ味が抜群に良い。

 一方の開放型ヘッドフォンである「ETHER」も、やはり平面駆動型ならではの高解像とつながりのよいサウンドを特徴としながら、時にはソースのエネルギーを大胆に粗っぽく引き出す一面をのぞかせる。ジャズバンドの音源は、ウッドベースの低域が鋭く弾け、音の瞬発力が非常に高く一音ずつが鮮やかに再現される。躍動するベースラインの沈み込みも深く、メロディラインのボトムをどっしりと支える。ボーカルの声には柔らかな丸みに、しっとりとした色っぽさもあり、ハイトーンの余韻には自然なきめ細かさのあるテクスチャー感が心地良い。高域は開放型の切れ味の良さを持ちながら、芯が強くメリハリも効いていて、とにかくその存在感が圧倒的だ。ボーカルの声も肉付きがよく、ほんのりと湿り気を帯びた色っぽさもある。スピーカーで音楽を聴いているような芯の安定感と、立体的な音像の表現力が持ち味だ。

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