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“重低音の先駆け”がついにハイレゾ対応! オーディオテクニカ「SOLID BASS」開発者に聞いた新技術の数々(2/4 ページ)

» 2015年11月10日 13時13分 公開
[山本敦ITmedia]

ハイレゾ対応ヘッドフォン「ATH-WS1100」の高音質化技術

 それではまず、ヘッドフォンの最上位モデルである「ATH-WS1100」から技術的に進化したポイントを探っていこう。「重低音+ハイレゾ」を実現できた最大の要因は大口径53ミリの「ディープモーション・ハイレゾオーディオドライバー」の採用にある。ヘッドフォンの場合、力強い低域を再現するためには振動させる空気の量をたっぷりと確保する必要がある。そのために近道となるのが大口径のドライバーを採用することだ。シリーズの従来機よりもドライバーのサイズを上げて、今回発売される3機種のヘッドフォンにそろって搭載した。

SOLID BASSシリーズのフラグシップヘッドフォン「ATH-WS1100」

 「ドライバーが大きいだけでは重低音に偏ってしまいますので、ハイレゾ再生に対応するためディープモーションドライバーにはより強力な磁気回路を乗せています。強い磁力により、ボイスコイルに流れる微細な電気信号まで拾って中高域のリニアリティーも高めています」(奈良氏)

SOLID BASSシリーズ専用に53ミリ大口径の「ディープモーション・ハイレゾオーディオドライバー」を開発。ハイレゾの解像感とキレのある重低音再生を両立させる大型の高磁束磁気回路を搭載した

 オーディオテクニカでは、Hi-Fi志向の「Art Monitor」シリーズや、「ATH-PRO700MK2」などのヘッドフォンに53ミリ口径の大型ドライバーを搭載してきた実績がある。駆動力を必要とする大口径のドライバーを、スマートフォンやポータブルオーディオプレーヤーとの組み合わせでもしっかりと鳴らすためのノウハウも既に蓄積されている。

 「従来のSOLID BASSシリーズでは、エンクロージャーの中に複数の空気室を設けて、空気のダンピング効率を上げる『エクストラチャンバーメカニズム』の技術が生かされてきました。今回の新製品ではエンクロージャーの空気室は1つですが、ドライバー背面の空気のバネを最適化するために、空気の通り道となる『ベンチレーション』を効果的に活用して良い結果を得ています」

 ATH-WS1100では、アルミニウム素材のエンクロージャーに正円状のベントを設けている。振動板にかかる負荷を抑えるため、ステンレス素材の音響抵抗を配置することで、筐体内部の空気のバネを最適化し、ドライバーの振幅を最大化。強い低域を出力するための能率を高めている。さらにエンクロージャーの側面には、通気を整えるためのエクストラベントを設けて、クリアな中高域にチューニングしている。

アルミニウムのハウジングに正円状のスリットを設け、その中にベンチレーションが配置されている
2つのベンチレーションを配置した「エクストラ・エアフローベース・ベンチングシステム」。青色の部分が正円状のベントで、振動板への負荷を軽減するステンレス素材の音響抵抗を配置。筐体内部の空気のバネを最適化しながら、低域のパフォーマンス向上を実現。赤い矢印の部分がエクストラベントとして設けられた者で、ハウジングの側面に設けることで通気を整え、解像感の高いクリアな中高域再生を可能にする

 エンクロージャーそのものにも工夫を凝らした。搭載されているドライバーの口径が大きいので、強靱なユニットの動きによる振動がバッフルに伝わらないよう、剛性の高い細密加工アルミ材を2重に組み合わせたデュアル・エンクロージャーデザインとしている。さらにイヤーパッドにも硬度の異なる2種類のクッション材を採用した。その経緯を平山氏に訊ねた。

ハウジングは剛性の高い精密加工のアルミニウム材料を組み合わせた「制振デュアル・エンクロージャーデザイン」を採用。ドライバーから伝わってくる不要な振動をカットして、よりピュアな中低域再生を可能にしている。

 「最上位機であるATH-WS1100を“重低音+ハイレゾ”のモデルとするため、イヤーパッドにも何か工夫を盛り込めないか検討してきました。そんな折にイヤーパッドを2層にするというアイデアを、ある若手の技術者が持ってきました。イヤーパッドは肌に近い方が柔らかく、形を柔軟に変えて優しくフィットします。これによって遮音性の向上にもつなげています。芯の方は硬くなっていて、パッドがつぶれた状態でも音響空間を耳とヘッドフォンの間に残せるので、耳の形によるリスニング感の変動幅も少なくできます。動きながら音楽を聴いていると、ヘッドフォンの装着性は変わってくるものなので、そこをイヤーパッドで可能な限りカバーするという考え方です」(平山氏)

イヤーパッドは硬さが異なる2層のクッション材を採用。密着感を高めながら心地良くフィットする
幅広なイヤーカップが心地良い装着感を実現する

 今回は実機を借りて音質もチェックしてみたが、低音はやみくもに強いわけではなく、むしろ立体的で他の音域とのバランスを重視したチューニングだ。どんな音楽を聴いても低域の高い安定感が際立っている。低音のシェイプは筋肉の引き締まったアスリートのようで、スピード感にもあふれている。ロックやジャズのベースラインの切れ味が鋭く、オーケストラの演奏も透明感の高い低域が緊張感を生み出す。リニアリティーの高い重低音が、中高域の音像もキリッと引き締める。音楽の核心に迫れるヘッドフォンだ。

「ATH-WS1100」のケーブルは着脱式で、ヘッドフォン側も3.5ミリのミニプラグ仕様

 本機のドライバーユニットは、イヤーカップの中でユーザーの耳に平行に向かうよう少し斜めに傾けて配置されている。これによって、スピーカーリスニングのように立体的な定位感を実現する。イヤーパッドは柔らかく密着感も高い。一般的な重低音系ヘッドフォンでは密閉性を高めるために側圧を強くしているものも多いが、「ATH-WS1100」は思いのほか側圧がソフトなので、長時間のリスニングも苦にならなかった。

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