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2015年を総括! 恒例「麻倉怜士のデジタルトップ10」(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2015年12月31日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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第1位:“最高”を軽々と凌駕する“異次元”、Ultra HD Blu-rayプレイヤー、パナソニック「DMR-UBZ1」

――いよいよ第1位の発表です。「今年最も印象的だったニュース」は何でしょう?

麻倉氏:それでは発表しましょう。2015年の第1位は……パナソニックのUltra HD Blu-rayプレイヤー「DMR-UBZ1」です。

――Utra HD Blu-ray「プレイヤー」、ですか? 確か同機はUHD対応「レコーダー」だったハズでは?

麻倉氏:そのワケは後ほどお話するとして、まずはこの製品を第1位に推した理由をお話しましょう。

 2003年にBlu-ray Discバージョン1.0がスタートして、今年で12年です。この間に数々の名レコーダー、名プレイヤーが時代を彩ってきましたが、こと画期性、衝撃性という意味で、UBZ1に優るものはないでしょう。ポイントは2つ。1つは世界初のUltra HD BDプレイヤーであること(日本でいう4Kを欧米ではUltra HDもしくは省略してUHDと呼ぶ)。もう1つは従来からのBDレコーダー、BDプレイヤーの最高峰をマークする製品として開発されたことです。

 パナソニックは1月のCES時点で試作機を発表しており、UHD BD機の発売自体は予想されていました。想定外なのはスタートが“レコーダー”からであったということです。レコーダー文化のない欧米ではプレイヤーでのデビューが予定されていますが、テレビ放送が未だに根強い力を持ちレコーダーが主体となっている日本では、登場はまずBDレコーダーということになりました。考えてみれば2006年のBDバージョン2.0のスタートモデルである「DMR-BW200」もレコーダーでした。

――最近ではついに日本でも定額制ビデオ配信サービスが表れ始め、いよいよテレビ番組もネットに移るかという予感はしますが、現状ではまだまだレコーダーを置き換えるだけの勢力にはなっていませんね

麻倉氏:それに加えてテレビ放送とオンデマンド配信では情報量に圧倒的な差があり、パッケージメディアでは放送の更に上を行く情報量を収めています。今年リリースされたUHD BDは単に解像度が4K(3840×2160ピクセル)の4倍に増加したことのみならず、これまで積み重ねてきた画質改良の歴史から得られた知見が総て投入された“最終的な高画質フォーマット”です。色表現は人間が視覚で感じられる物体色の99%をカバーする新しい色域のB.T.2020へと進化し、階調表現は現行BDの256(8bit)から1024(10bit)へ4倍に拡張され、さらにこれまで全く手が付けられていなかったハイ・ダイナミックレンジ(HDR)という、B.T.2020にすら規定されていない究極の高画質の仕掛けも入っています。

――ヒトが創り出した究極の高画質パッケージ規格、ですね。行くところまで行き着いたという感じがします

麻倉氏:それを再生できるDMR-UBZ1は、つまり映像メディアの40年近くに渡る発達史から生れた「究極のパッケージメディア」が再生可能な世界初のプレイヤーなのです。しかもただ再生を可能にしただけでなく、HDR世界を従来からのノンHDRディスプレイにも拡張する、特別な機能「ダイナミックレンジ変換」も入っています。元々の広いDレンジを上手く圧縮し、狭いレンジ幅にまとめるというものですが、方法としては“明るくして、階調数を少なく”、“暗くして階調数を多く”が選択でき、後者にしてテレビ側で輝度を思い切り上げると、HDR的なダイナミックな雰囲気が得られます。

 こうしたUHD BDプレイヤーとしてのステイタスや新機能だけでも鮮明な登場感を持つ本機ですが、それに加えて現行BD再生の完成形を目指して開発されたという経緯も、極めて重要です。パナソニックのBDプレイヤー/レコーダー作りにはハイエンド機器作りと、それによるシャワー効果という、他にない顕著な特徴があります。技術とリソースを結集させたリファレンスグレード製品を作り、そのステイタスを天下に喧伝し、トップグレードとして旗艦製品(フラッグシップモデル)を戴くラインアップを編成することで、高いブランドイメージを形成します。そういったブランド力をシャワー効果として傘下製品に与え、さらにその過程で得られた技術的資産や技術的ノウハウを順次下位製品に降ろし、艦隊全体の実力を向上させるという、総合的で戦略的なものづくりの手法です。これはオーディオ機器事業では一般的なやり方ですが、ことビデオ機器では珍しいですね。

――マーケティングとエンジニアリングが非常に高い次元で融合することによって、時には世界中に多大な影響を及ぼす手法ですが、同時に開発のための技術力と財力、そしてブランディングのための物語構成力が要求されます。工業製品におけるブランド構築は、いうなれば企業の文化そのものを創る総合力が問われるという訳ですね

麻倉氏:オーディオでもそうですが、ハイエンドモデルはブランドの思想を体現するものでなければ“ただの高価格製品”に成り下がってしまいます。このあたりがハイエンドの難しいところですね。

 パナソニックは9000番台のハイエンド・BDレコーダー/BDプレイヤーを、UHD BD登場待ちで待機した昨2014年を除いて毎年継続的商品化し、世に送り続けてきました。開発陣は、ディスクに収蔵された情報を漏らさず、最大限まで引き出すことを目標に掲げ、常に画質と音質を徹底的に追求してきました。UBZ1はそれら2年分の総決算なのです。画質では4Kの4:2:0信号を4:4:4信号に補間するマルチタップ処理や、4K領域で輝度信号と色信号の両方に対して輪郭と解像感を補正する4Kダブル超解像を、音質では高剛性筐体や高音質パーツの惜しみなく採用したことや、バランス音声出力の搭載、NAS(ファイル共有/DMS)機能の搭載による単体ミュージックサーバ機能…… など、“再生機としての完成形”を実現するため、あらゆる部分に徹底したこだわりで臨んでいます。

 そこまでのものを作ったならば、評価する側としても徹底的な姿勢で臨むのが礼儀というものでしょう。製品としての評価対象はあまりに多岐に渡っていますし(2K/4KBD再生、エアチェック録画ディスク再生、映像は4K液晶テレビと4Kプロジェクターで再生、HDMIとアナログインタフェースによる音質チェック、ハイレゾ音質チェック……)、本機に掛けた開発陣のこだわりも並々ならるものが伝わってきます。クオリティは、確かに素晴らしいです。特に現行BDの4Kアップコンバート再生ではここまで、精密な映像が得られるのか、驚きです。

――そこまで言われては、今年の第1位も納得せざるを得ないという感じです

麻倉氏:まさに史上最高のBDプレイヤーであり、BDレコーダーです。従来は「比肩するものなし」とされていた「DMR-BZT9600」の地平をいとも簡単に超えています。

UHD BD時代のハイエンドモデル「DMR-UBZ1」は、“史上最高”とうたわれた前フラッグシップモデル「DMR-BZT9600」を凌駕した。リファレンスに用いた「サウンド・オブ・ミュージック」を観ていると「出てくる映像のあまりの繊細さに、ザルツブルクの思い出がまざまざと蘇ってきましたね」と麻倉氏は話す

――DMR-BZT9600が「最高」だったのならば、DMR-UBZ1はそれを凌駕する異次元という表現が合いそうです。もはや今までの基準で測れるモデルではない気がしました

麻倉氏:このことはこれからのコンベンションBD鑑賞に、非常に重要な提起をしています。今後ディスプレイはすべからく4K(もしくは8K)になっていきます。当然ディスプレイ自体がアップコンバート機能を持つ訳ですが、理論的には画源側で処理をした方が良いはずですよね。それを見事に証明したのが今回のDMR-UBZ1の4Kアップコンバートです。特にプロジェクターでの威力は絶大でした。今後の4Kプロジェクターでの楽しみが1つ増えたことになります。

――オーディオでは機材をひとつ変えると、手持ちの音源を全て聴き直したくなるということが多々ありますね。今回のDMR-UBZ1も、そういった楽しみ方ができそうです

麻倉氏: 最後になりますが、非常に大事な提言をしたいと思います。これ程までこだわって画質、音質を作る対象が「BDレコーダーに内包されたBDプレイヤー」とはどういうことですか。ここまで並々ならぬ技術と情熱は、本来なら単体BDプレイヤーにこそ注ぐべきものでしょう。BDプレイヤーにとってのレコーダー部はノイズの塊に他ならないのです。DMR-UBZ1には伝統的にレコーダー側のノイズをサスペンドする機能がいろいろ採用されていますが、それは単体BDプレイヤーなら必要ない、まったく無駄なものです。是非ともパナソニックらしい矜持(きょうじ)のBDプレイヤーを期待したいです。

――「画質の鬼」からの叱咤激励と今後への期待が飛び出したところで、本年の締めくくりとさせてもらいます。皆様、一年間ありがとうございました。来年もまた「デジタル閻魔帳」を、どうぞよろしくお願いします

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