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部屋中を“上質な音”で満たす――テクニクス「OTTAVA」のこだわりと実力山本浩司の「アレを見るならぜひコレで!」(2/3 ページ)

» 2016年01月19日 06時00分 公開
[山本浩司ITmedia]

 テクニクスのリーダー小川理子さん(現在はホームエンタテインメント事業部長)はプロのジャズ・ピアニストの顔を持つが、そんな彼女がトップを務める新生テクニクスらしいネーミングといっていいだろう。

 システムはCDプレーヤーアンプのヘッドユニットとステレオスピーカーというシンプルな3ピース構成。まず、横幅、奥行ともに11cmのコンパクトな2Wayスピーカーの設計思想が興味深い。

 部屋中を上質な音で満たしてしまおうというOTTAVAのコンセプトに則って、指向性の鋭いドームツィーターに90度の水平指向性を与えるホーンをあてがい、その高域ドライバーをフロントと両サイドに展開し、270度の水平指向性を実現しているのである。つまりこの高域ユニットの実現によって、部屋のどこで聴いても周波数バランスの整った音が楽しめるというわけだ。

 キャビネット内には8cmウーファーが上下対向配置され、デフューザーで音波を拡散させた後、螺旋形状のスパイラルアコースティックチューブによって導かれた低域成分をエンクロージャー背面のポートから放射させる構造が採られている。

スピーカーのカットモデル。8cmウーファーが上下対向配置されている

OTTAVAが目指す「上質なサウンド」の構成要素の中には、臨場感豊かな低音という条件が当然入っており、スピーカーをコンパクトに仕上げることが大前提であっても、それを満たすためには最低でも8cmドライバーの2基使用が必要だったと設計担当者はいう。このウーファーサイズに合せて11cmというキャビネットの横幅と奥行が決定されたそうだ。

 厚手の透明なアクリルのリッドを手動で開閉させるトップローディング方式のCDドライブを擁したヘッドユニットは、外部NASとの連携によるネットワークプレーヤー機能とUSB-DAC機能を持ち、BluetoothやAirPlayにも対応している。

厚手の透明なアクリルのリッドを手動で開閉させる

 アンプはL/R用それぞれ2基ずつ合計4基の「JENOエンジン」と呼ばれるフルデジタルアンプが内蔵されており、DSP内に書き込まれたチャンネルデバイダーで帯域分割した後、バイアンプ駆動する仕掛けだ。

 このデジタルアンプにはR1とC700で注目を集めた「LAPC」も採用されている。これは、いわばダンピングファクターを向上させてスピーカーのインピーダンス変動によって生じるアンプの周波数特性の乱れを補正するもので、この技術によって振幅/位相周波数特性をフラットにすることができるという。

 このヘッドユニットの意匠上のキーワードは「音の宝石箱」。小川事業部長のネーミングだそうだ。女性にも受け入れられやすいカタチをどうしても実現したかったからとのこと。確かにアルミ筐体の仕上げはとても上質で美しい。

 トップローディング方式としたのは、本体をできる限り小型化したかったこととリッドを手動で開閉するというディスク再生の儀式性、それによって得られる音楽を大切に思うリスナーの心持ちを尊重したかったからだそうだ。

 試作機では、リッド開閉の操作感がややぎこちなかったが、その改善をお願いしておいたので、最終商品はそこが改善されていることを願いたい。こういうライフスタイル志向の製品を愛着を抱きながら使い続けるには、操作フィーリングはきわめて重要だと思うからだ。

 SC-C500のヘッドユニットにUSBメモリーを挿し、ハイレゾファイルを何曲か聴いてみた。音調はとてもマイルドで、耳に心地よいサウンドだ。正直言うと、シリアス・リスニング時にはもう少しパワーが欲しいが、狭小空間で音量を抑え目にBGM的に音楽を楽しむ場合にはそんな不満は出ないだろう。

 L/Rスピーカーに対して正三角形の頂点の位置となるスイートスポットで音を確認した後、部屋の中を移動しながら音楽に耳を傾けてみたが、なるほどオフセットした場所で聴いても、スイートスポットで聴ける耳に心地よい帯域バランスがくずれないことが分かった。

 これはリビングルームで複数人で音楽を楽しむときの大きな魅力となるだろし、スイートスポットに座ってのシリアス・リスニングとは異なる音楽聴取スタイルにおいても良質なサウンドを提供しようという企画陣の着想は、きわめて現代的だ。小音量でも低音がふっくらと柔らかいのもOTTAVAの美点。ライフスタイル・オーディオの核心を突くこのサウンドスタイルの提案は、とても意義深い。

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