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ミーレのチーフデザイナーが考える新しいキッチンのカタチ滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(3/4 ページ)

» 2016年01月29日 06時00分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

――ミーレの「Design for life」は、時代によって変わらないものなのか、それともトレンドに強く影響されるものなのでしょうか?

コイネケ氏:「Design for life」という理念は、人が暮らしやすくする、豊かにすることです。だから、時代によって変わるべきものであると思いますが、ただ、デザインがトレンドによって変わったかという問いに対しては、常にミーレらしさを内包したうえで、そういったトレンドを取り入れていると言えます。例えば、1970年代のミーレの商品を見てみますと、それは非常に1970年代らしいデザインとなっています。でも、そこにはミーレの考える、常に人の暮らしを豊かにするというものがベースにあったと思います。

 1970年代はデザインより機能を重視する空気があり、当時のトレンドや当時の技術を強く反映したデザインを取り入れています。それにデザインに関する考え方も違いが感じられますね。当時は今と比べると、“形と見た目”ぐらいがデザインと考えられていたので、今とは明らかに定義が異なります。当時は会社のオーナーである社長や会長の意見が一番反映されていたと思いますが、現在はもっと戦略的で、デザイン自体も“見た目”だけでなくなっています。製品のコンセプト作りの時点から、すでにデザインは始まっています。デザイナーのアプローチも大きく違っているでしょう。

――調理家電にとってはキッチンの環境が変わったこともデザインに大きな影響を与えていると思います。近年、日本、欧州ともにキッチンのオープン化が進んでいますが、それによってデザインの仕方や色使いが変わったとか、何か変化はありますか?

ホワイト。日本でも一部展開している
ブラウン

コイネケ氏:例えば、ガラスのパネルをたくさん使用するなど、日本では“白いもの”がすごく流行っているのですが、そのキッチンによって色合いの選択方法も変わってきました。欧州では白以外にもブラウンやブラックも流行ってます。「Generation 6000 シリーズ」は、最初にお話したようにステンレススティールを非常に少なくしています。オープンキッチンになって、ステンレススティールが多くなってしまうことに抵抗を感じる方もいるので、白や黒、茶色といった色合いを全面に押し出すようになったのです。

ブラックは精悍な印象

――ステンレスは、プロユースなイメージがある一方で、やはり人をリラックスさせるようないわゆるリビング空間には合わない素材なのでしょうか

コイネケ氏:ステンレススティールは、周囲の色を反射してくれるという良さはあります。例えばキッチンがクールな色合いだと、それを反射してステンレスもクールな色合いになりますし、周りが暖色なら暖かみを出してくれたりもします。しかし、やはり他のインテリアに比べると目立ってしまいます。例えばスチームコンビオーブンなどは扉のガラス部分から庫内のステンレスが見えるのですが、できるだけで黒を足して、見えにくく、素材感を弱める工夫をしています。

オーブンの庫内にはできるだけで黒を足して外からステンレスが見えないようにしている

――なるほど。同じ素材でも見え方をデザインでケアしているわけですね

コイネケ氏:その一方でステンレススティールを好む方も多くて、特にアメリカ人は好きな傾向にあります。それが製品の品質を主張するという風に思う方もいらっしゃるようです。金属があると高級感があるので、それを所有しているんだと主張したい方はドイツ人にもいますし。また、南ヨーロッパでもクラシックな感じのステンレススティールを使っている製品を好まれる方もいます。われわれは今よりも素材をもっと融合した方向でデザインしていきたいのですが、全体に馴染んでいくことを目指す一方、同時に「これがミーレだというアイコン的な印象を弱めてしまったらどうしよう」という心配もあります

――デザインの中で矛盾をどう解消するかも重要だということですね

コイネケ氏:空間的な調和というのは、居心地や人の豊かさみたいなものにとっては、非常に不可欠なものである一方で、ミーレとしての誇り、これがミーレあるというプロダクトのいわゆる表情とかは出さなければならないと、両方の側面を強調するデザインアプローチは非常に高度であるということです。でも、その高いレベルを目指すのが、ミーレであるという解釈なのです。

ーーイタリアのデロンギなどは、自分たちのデザインフィロソフィーを「イタリアニティ」という言葉で表しています。造語ですが、過去のイタリアの歴史的建造物やヨーロッパの巨匠たちがイタリアで残した作品、著名なイタリア人デザイナーの作品などを分析して、そういうものを含めてデロンギのデザインに落とし込んでいるそうです。ミーレはドイツならではの歴史も含めて、ミーレのデザインを考えているのでしょうか?

コイネケ氏:ドイツらしさや、いわゆるドイツの有名なデザインなどよりは、むしろ会社の歴史から我々が学ぶこと、感じることを商品に入れているのだと思います。主張することはなく、落ち着きがあってシンプルで、暮らしに寄り添うようなデザインです。ですから、これがドイツだ! というような感じでは表現していませんが、どちらかというと心の中――ハートからドイツらしさを表現しているのだと思いますよ。

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