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「バックライトマスタードライブ」に第2世代OLED、ディスプレイの進化は止まらない麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/5 ページ)

» 2016年02月12日 17時09分 公開
[天野透ITmedia]

「風景」ではなく「光景」を再現した

麻倉氏:画に関してですが、これがまた素晴らしいんですよ。本当にビックリしました。PQカーブというのは絶対値で白レベルを規定しており、例えば「3850nitsはこの辺に入れよう」といったように、特定の明るさを絶対値でグレーディングしています。現実問題として人間は20000nits以上まで認識できており、われわれが日常目にしているものは、例えば天井の蛍光灯が6000nitsだったり、スポットライトが13万nits、くるまのボンネットで反射する太陽光が30万nitsだったりします。

 人間が自然に目にする色の世界は高輝度が非常に多く、それを人間は記憶しているワケですが、テレビに高輝度を押し込めようとした時に、やはり800nits程度では記憶の明るさというのは出ないんです。いくらPQカーブでマッピングを変えて高輝度情報を圧縮した所で、今までは絶対値がどうしても出ませんでした。

 高輝度が出るコンテンツとして映画の「アニー」を視たところ、色のドラマが実に素晴らしかったですね。アニーがあしながおじさんのヘリに乗ってニューヨークを飛ぶ夕日の場面では、非常に強い夕日がビルに反射して輝く画が見られます。まず水面で光が反射して、それがクライスラービルなどの高層ビルで反射するといった光景で、バックライトマスタードライブのモニターからは色のドラマが短時間のうちに現れていました。色と光のドラマの劇的なシーンというか、反射光に含まれる色の情報の多さというか。白色の太陽光が7色の虹に分割される、そんなメタファーが夕景のニューヨークに表れたと感じましたね。

光の表現が映える「アニーのワンシーン」。シルエット、ゴーストやフレア、セーターの反射具合など、「明るいからこそ表れるドラマ性」が随所に見られる。

麻倉氏:これは「風景」ではなく「光景」です。単に目の前に広がる「風景」ではなく、「光景」という光が創る世界観や存在感を、4000nitsの情報量で強く感じました。1000nits位では単に“明るい”程度だったものが、4000nitsでは光の情報量が繊細かつ緻密(ちみつ)に出てくるのです。

――光から明るさだけでなく、色を感じ取ったというのは非常に重要なポイントですね。映像を明るくすることで何が得られるのかが一目で分かります

麻倉氏:アニーが着ている紫色のセーターをとっても、1000nitsでは若干色あせて見えるものが、4000nitsでは微細な色がよく出ていました。われわれが目にしているのは反射光で、ギラギラするものは分かりやすいですが、それだけでなくセーターのような“光が閉じこもる”ものでも、その中で反射する一部の分かれ目や色相感がよく出てくるのです。

 HDRのプロフェッショナルであるソニーの小倉氏によると、「HDRは雰囲気を出す仕掛け」だそうです。これは確かにその通りで、まさにその時間でないと現れないような“光景”の雰囲気が、4000nitsではほんとうによく出ています。大変感動しましたね。

――上が伸びたからこそ、中間の光が潰れずに出てきたという訳ですね。感じ取りにくい微細な情報こそ、リアリティを左右するカギとなる、と

麻倉氏:これまでも2Kから4Kへといった解像度が上がった時に見える情報量の多さや、解像感の細やかさには感動してきました。ですがやはり、階調と色が織りなす実体験のようなリアリティーあふれる光景というものが4Kの解像度の上に乗ってくるという、立体的な画質要素の構造を考えると、今回ソニーが4000nitsまで頑張ってやったことで、「映像表現の可能性が飛躍的に広がった」と評価できます。映像というものを光、色、解像度といった要素の掛け合わせと考えた時、その効果がすごく大きくなる可能性が出てきました。4000nitsの画面を見て、それを強く感じました。

 色は光があってこそ認識できるのです。いくら極彩色の装飾があっても、真っ暗では認識できません。そこに光がきてキチッと分光し、反射することで、われわれの目に入ります。その反射のクオリティーが非常に高くなったのが、今回のバックライトマスタードライブなのです。

――光量が増したことで“使える絵の具が増えた”ということですね。美術の歴史を見ても、レンブラントやフェルメールなど「オランダ黄金時代」と言われる17世紀フランドル画派の絵は、光と影が描き出す「光景」に圧倒的なリアリティーが宿っています。いずれもダイナミックレンジが非常に広い光景を何とかキャンバス上に表現しようと苦心したもので、特にレンブラントは「光の魔術師」と称されています。そういった意味でもやはり光に着目したこの進化は正しいと思いますね

麻倉氏:うーん、なかなか博学ですね。

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