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「バックライトマスタードライブ」に第2世代OLED、ディスプレイの進化は止まらない麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/5 ページ)

» 2016年02月12日 17時09分 公開
[天野透ITmedia]
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8Kディスプレイの進化

麻倉氏:映像関連では8Kも見逃せないポイントです。日本の8K技術は健在で、パナソニックが昨年に引き続き、今年も自社開発で55インチIPS液晶の8Kディスプレイを出してきました。

――55インチの8Kというと、昨年のCESをはじめ、技研公開などでも展示をしていましたね。このコーナーでも「家庭に入る8K」として取り上げました

麻倉氏:その55インチ8Kですが、昨年はLEDバックライトだったものを、新型はレーザーバックライトに更新してきました。色域はBT.2020に対して98%で、ほぼBT.2020といって差し支えないでしょう。この数字は三菱電機が既に出しており、こちらも技研公開とCEATECで公開しています。その時もこのコーナーでも取り上げて、こんなことを言いました。「大変素晴らしいが、視野角が悪い。一生懸命BT.2020をアピールしても、それは真正面だけで、離れて見れば隣のテレビの方がよっぽど良い」

――技研公開の時はスイートスポットが左右30度もないくらいで、斜め45度から見ると色がマゼンタ方向に破綻していましたね。確か展示場では「この場所から見てください」という目張りがしてありました

麻倉氏:今回の提案はB to Bですから、視野角の問題は非常に重要です。サイネージ利用などでも分かる通り、B to Bでは真正面より、むしろ斜めから見るのがメインになります。技研公開の三菱の例でも分かる通り、VAで斜めから見ると色が崩れてコントラストも取れません。B to B市場向けのディスプレイで「正しい表示のため画面正面から見てください」なんていうことはあり得ないのです。そういう意味では先程のUHDアライアンスと異なり、こちらはIPSに限りますね。

 こうした部分はパナソニックもよく考えていて、徹底的にIPSにこだわり、VAと比較して若干不利だったコントラストを直下型バックライトで上手く補ってきました。

――なるほど、そのためのレーザーバックライトという訳ですか。確かにレーザー光は普通の光よりもエネルギー量が大きいですから、コントラスト拡張に一役買いそうです

麻倉氏:この場合は直下にレーザーを置く方法が肝になるのですが、その部分は完全にブラックボックスです。レーザーは直進光なので、バックライトに用いるためにはどこかに拡散板を置かないといけません。しかし拡散板はせっかく収束させたレーザー光のエネルギーを落としてしまうので、そのロスをいかに抑えこむかという部分がノウハウになります。以前、三菱のエッジバックライトを取材した際には、二重三重に拡散板を置いたという説明を受けました。直進している光をいったん戻し、その間に拡散板を置くという非常に手の込んだものです。

レーザーバックライトを使ったパナソニックの55インチ8Kディスプレイ。レーザーバックライトというと三菱が製品化しているが、三菱はVAパネルを用いているのに対してパナソニックは得意のIPSパネルを8Kに使用した
VAでは斜めから見ると色が崩れてしまうため、展示台に仰向けに置くという見方は適さない。ピークスペックが要求されるシアター用途と異なり、サイネージ等のB2B用途ではIPSパネルに分がある

 現状、大型8Kパネルの開発は中国、韓国が中心ですね。中国BOEは現在98インチと108インチをリリースしていますが、次は88インチあたりにくるかと予想されます。サムスンはBOEの98インチを使用しており、LGはRGB配列のカラーフィルターを使った98インチと同時に、RGB+W(白)配列のカラーフィルターを使った65インチパネルを開発しました。また、同じ65インチでは台湾イノラックスが中国ハイセンスに供給しており、これを展示していました。

――現状ではパネル生産が限られていますから、耳慣れない海外メーカーのものでもディスプレイサイズでパネルメーカー予想できますね

麻倉氏:こういった状況で98インチの方向性も見えてきたかというところでしょう。国内メーカーはシャープが消えてしまったため、8Kはパナソニックが孤軍奮闘するという状態になってしまいました。大型での展開は早くも中国韓国へ行ってしまったのが残念です。

中国ハイセンスは台湾のイノラックスパネルを使用
韓国サムスンは中国BOEパネルを用いた
LGの8KパネルはLGディスプレイによるものだ

麻倉氏:このようにハードは東アジアを中心にいくつか現物が出てきているのですが、展示用のコンテンツには各社とも苦労しているようです。LGは静止画を主体にしてタイムラプス映像を挟み込んだもの。サムスンとハイセンスは基本的に動画ですが、いまひとつパッとしませんでした。8Kは圧倒的な画素数を誇ることと、ショー専用のデモ映像を仕立てているということで、基本的にきれいでしたが、コンテンツの確保は難しいようです。

 コンテンツに関しては、キヤノンの出展もトピックですね。8K出力は自社開発の4Kプロジェクターによる“4画面重ね”で、技術展の時に出たものと同じコンテンツを使用していました。キヤノンは制作の現場にEFレンズを使った8Kカメラを持ち込んでおり、HDRを加えるということで、非常にキヤノンらしいソリューションを展開したといえます。

 8Kコンテンツに冠しては、日本1強の状態です。これまで8K映像の制作を手がけていたのはNHKメディアテクノロジーだけでしたが、PCAやイマジカもそろそろ8Kコンテンツを作り出そうとしています。現状では日本に来ないとまともな8Kコンテンツはありません。放送の研究をしているのが日本のみで、そういう意味で、日本のプロダクションはしっかり8Kに取り組んでいるのです。

――8Kに関しては完全に日本主体で動いていますが、今後はいかに広げていくかが課題となるでしょう。規格としてはNexTV-FやNHKで既にでき上がっているわけですから、これからは8Kを各国へ普及させる展開に期待したいです

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