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世界の4K番組最前線! 「miptv2016」レポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2016年06月07日 14時06分 公開
[天野透ITmedia]

――日本で通販専門チャンネルというと「SHOPチャンネル」「QVCジャパン」などがありますが、個人的にはあまり積極的に視聴するジャンルではないですね。4K化の恩恵はあるとは思いますが、こういった場面で出てくることは予想外です

麻倉氏:うちの奧さんは毎日、通販チャンネルをたくさん見ています。おかけで毎日、宅急便が来ますよ。それはともかく、4Kのメリットとしては、ショッピングで非常に重要な商品の質感や色が、2Kと比較して圧倒的に伝わりやすいというところです。が、放送開始にあたって事前調査をしてみたところ「4Kは情報量が多すぎて、見続けると疲れる」という声があったということです。その対策として打ち出したのが150フレームのスロー撮影です。通常の速さでカメラを動かすと、高精細と相まって情報過多で疲れる原因となります。そのためここの局では高速度撮影やスローパンを用いたり、フォーカスを商品に絞って背景をぼかしたりすることで、長い時間見てもらうための工夫をしているのです。

 この話のポイントは4K化のデメリットがハッキリと指摘されたことですね。大きな画面で動体を見た時に視聴者が感じる不快感とそれに対する対策が、通販番組という意外なところから出てきました。従来通りの映像で単に解像度が上がったというだけではなく、2Kのやり方のまま4Kに行っていいのかという問題に対して、撮り方にしろ画作りにしろ、4Kには4Kのメソッドがあるという事が発見されました。

ドイツのpearl.tvは通販番組の4K化というチャレンジを敢行。単に新ジャンルというだけでなく、4Kで8時間もの長時間生放送を行うという意義もある
画像は若干ボケているが、4Kならば素材の質感もよく分かる。商品を手に取ることができない通信販売において大きなメリットだ

――それは重用なリポートですね。4K全体に渡る極めて有意義な研究結果だと思います

麻倉氏:制作はドイツ南西部のシュヴァルツヴァルトにあるスタジオで行われ、それをミュンヘンの放送局から発信しているのですが、実際の制作において現在はなんとSSDをメディアとして物理的に持ち運んでいるんですよ。なので、今のところは生放送となっていないみたいです

――なぜそんなことに。しかもシュヴァルツヴァルトというとフランスとスイスの国境付近ですから、オーストリアにほど近い南東部のミュンヘンまでは数百キロの距離がありますよ

麻倉氏:なんでも、現在使っているメタル回線では4Kに耐える通信帯域を確保できないため、暫定措置としてこんな事をしているみたいです。ですが、どうやら夏にはミュンヘンまで光ファイバーを敷設するとの報告も添えられていました。急に4K放送を始めたためにインフラが整いきっていないという例ですね。

麻倉氏:さて、今回のmiptvの4Kセミナーで脚光を浴びたのは音楽ジャンルです。ニューヨークのメトロポリタン劇場から始まったライブビューイング(劇場中継)が日本を含めて世界的に盛んになってきており、ロイヤル・オペラもこの取組で4Kを使う準備段階に入っています。ロイヤル・オペラでは2Kと4K、インターレースとプログレッシブの違いなどを目下実験中で、オペラにおける4Kのご利益という視点で日夜研究が進められています。今回はサイドバイサイドでデモが行われましたが、やはり2Kと4Kの違いは明らかですね。特にアップ時の衣装におけるディテールの細やかさや、人物の顔のグラデーションといった点のほか、インターレースとプログレッシブという比較で見ると、動きがある時の解像感がまるで違います。

 ミュージカルなどの他の舞台と比べるとオペラではそれほど激しい動きはありませんが、やはり人物が歌いながら横移動をする時などは、インターレースとプログレッシブの違いが顕著に表れますね。劇場中継が次に目指すべきはやはり4Kプログレッシブでしょう。そしてその次はHDRとBT.2020をテストし、オペラにおけるHDRの有効性を確認するというステップになりそうです。

ロイヤル・オペラが行った2Kと4Kのサイド・バイ・サイドテスト。写真ではなかなか伝わりにくいが、細部表現などに圧倒的な差が表れる

――ですが日本はもう8Kをテストしていますよね? 既に「NHK紅白歌合戦」のパブリックビューイングなども行なわれていますから、日本人の我々からするとどうしても「うーん……」という感覚になってしまいます

麻倉氏:そのあたりはやはり日本が世界をリードしていることの表れでしょう。音楽における別の話題では、カナダのB2B音楽供給会社であるStingray(スティングレイ)が立ち上げた「リラックス4K」も挙げておきましょう。4Kによくある従来の演奏会ライブと違い、海中やサンセットといった4Kの風景映像をスローな音楽とともに流す、高品位ヒーリングに特化した音楽アンビエントの専門チャンネルです。コンセプトは「リズム・オブ・デイ」。朝日が昇る時の音楽、昼の音楽、夕日を背景に聴く音楽、夜の暖炉のお供など、時間帯とテーマに沿った映像と音楽を空間における風景の一部として提供しています。

カナダのStingrayが提案するアンビエントムービー。高画質・高音質に特化したサービスで、4K映像とともに若手作曲家の書きおろし楽曲を流すという。将来的にBGMのサウンドトラックが出てくると面白そうだ

麻倉氏:注目は、何といってもオリジナルの音楽で勝負することです。例えば朝日がテーマの場合でも、グリーグの「ペール・ギュント」といった定番曲に頼るのではなく、若手作曲家に依頼した新曲を流します。新進気鋭の作曲家に活躍の場を作り、音楽界そのものの活性化も図るという、実に意欲的な取り組みを行っているのです。この他にもスティングレイはジャズやクラシックなどのオーソドックスなライブチャンネルも4K収録をしているとのことです。

――若手作曲家は、特にクラシック系ともなると、活躍の場が極限られていてとても厳しいですから、これはリエイターにもうれしい取り組みですね。また、このようなアンビエント系のメディアというのは、テレビが壁サイズまで大型化すると価値が飛躍的に上がりそうです。公共空間の大画面などで利用されれば、閉鎖的な空間であっても開放感を演出することができそうですね

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