――モイアさん、さっきはありがとうございました。
「ええよええよ。まあ、長旅の道中、車の運転気をつけぇな」
――それなんですが、実は今、ちょっと……。
――車がぬかるみにハマって、実はかなり、大変なことになってまして……。
「ええ、なぁにしちょるの? まっちょれ、今、助けに行くけぇ!!」
さっき別れたばかりのモイアさんは、大型トラックに乗ってすぐにその場に駆けつけてくれた。近くで商店をしているモイアさんのイトコも一緒になって、大型トラックに私の軽自動車をくくりつけて引っ張ってくれる。
「なぁんで、こんなことになっちょるんや〜!」
――ごめんなさい……。
結局2時間にも渡って救出作業をしてくれたのだった。
――本当にありがとう、モイアさん……。
「ええ、ええ。ボクは解体やってて機械や車持ってたから、いろんな事故の時に呼ばれてなあ。中には車がひっくりけえってたのもある、ぐちゃぐちゃになってた死体も沢山見てきたけえ。君はひとりで旅してんのやろ。気ぃつけなぁ」
――……。
モイアさんは優しくたしなめてくれた。
私は、思わず涙を流さずにいられなかった。申し訳無さもあったが、初めて会った私にこんなにも優しくしてくれた、モイアさんの人柄に感動していた。
「泣ぁーくなや! まだ次へ行くんじゃろ。まあ懲りずに、高知に寄ったら顔見せぇ。ほんじゃな」
モイアさんはそのままトラックに乗り、颯爽と走り抜けていった。
高知で出会ったDIYアーティスト。高角の雄大な棚田のように、広い広い心を持っていた。
今日も山奥で、新たな作品を作り続けているのだろう。馬鹿なライターとの出会いも、ひとつのインスピレーションとして極楽の一部になるのだろうか。少なくとも、私はモイアさんとの出会いが一生忘れられそうにない。
ちなみに、この時一緒に助けてくれたモイアさんのイトコの作品も凄かった、というのはまた別の話で。
珍スポット、B級スポット、秘宝館、ストリップ、ジャンクション、工場、珍建築、電波住宅、珍寺、珍仏、巨大仏、新興宗教、奇祭、純喫茶、遊郭跡……。
遠くにあるようで日常のすぐそばにある「さいはて」を巡る旅人、金原みわの旅の記録をまとめた紀行エッセイ集がシカク出版より発売。
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