そういえば、この連載では1人目の春本さんも水車を作り、2人目のモイアさんも水車を作っている。人は晩年になると、水車を作りたくなるものなのかもしれない。
「テレビとか新聞とかも来たことあるよ。でもちゃんとしてないから、来ても恥ずかしいね」
「最近ちょっと調子悪いもんなあ。直しながらやってるけどね」
そう言って鬼塚さんは、ビニールひもをぐいぐいと雑に引っ張ったり結んだりした。そうすると、先ほどまで止まっていたオブジェも動き出す。
――本当にすごい、どうなっているんだろう。物理の勉強とかしたんですか?
「いんや。畜産と農業しか勉強してないよ。作るのはそんなに時間はかからないから、手が空いたときに作業している。もちろん夜やったり頑張りすぎたりはしない。ほどほどが大事だからね」
「人形を彫ったのも自分。顔だけなら一体20分かからないね。この木の色はね、バーナーで焼いたの。焼きを入れたら、コーティングしてなくても古く見えるからね。ニスも塗るとだいぶ味が出るね」
「頭の中で想像しながら、マジックでダンボールに設計図を書いて作っていくわけ。最初から誰かの設計図があるわけじゃないから、世界に1つしかない、自分でゼロから作り出してこそ設計ってことだね」
――苦労したこととかありますか?
「作る時点では動いてるけど、水車に設置したらまあうまくいかない、なんてことは良くあるね」
「20年前から作っているけど、今の作品は作り直して2年半。木ってのは水を吸うから、腐ってくるんだよね。まあ、壊れたら継ぎ足し継ぎ足ししてね。昔は全く違うものだったよ。ほらこれ」
そう言って鬼塚さんは昔の写真を見せてくれた。
――今の作品の中ではどれが好きですか?
「うーん。このゴルフしてるのは、大きいし思い入れあるよね。流木を拾ってきて作ったんだけど。タバコを吸っていて、なかなか粋でしょ」
――クールな感じが、ちょっと鬼塚さんに似てる気がする(笑)。
「そうかな。まあ僕もゴルフするし、自然と似てしまったのかもしれないね」
「これを作ってから、子供が更に興味を示しているように思えるね。立ち止まって、ずーーーーと見てるからね」
確かにこの不思議な動きにはなんだか中毒性がある。これでは子供だけではなく大人も見入ってしまうだろう。
――鬼塚さん、なにか夢ってありますか?
「夢? もう年取ったから夢も何もなくなっちゃった」
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