「もう、どういうお城にするのか考えてるんだよ」
そう言って夏田さんが出してきたのは、とある本だった。
――これは、教科書ですね。
「そう、孫の教科書だよ。この中の、この話」
「こんな城下町みたいに、入り乱れているような感じにして、傾いていたりふざけている家もあるけれど」
――ガヤガヤの街、良い名前。こんな風に、がやがやと大勢の人が来るようになる日が、いつか来るかもしれませんね。
「ほかにもアレクサンドリアの上に、笛を吹いている悪魔を作りたかったんだよ。あるいは指揮者を置いて、バイオリン奏者とかフルート奏者を置いて、オーケストラを作ったり。こっちにも、ピーターパンを作りたいとおもっていた。ワニとフック船長を置いたりして……あとは……」
夏田さんの話す夢は止まらない。その目は少年のようにキラキラと輝いていてまぶしいくらいだ。きっとこれからも溢れてくるアイデアに身を任せながら、この地で多くの作品を生み出し続けるのだろう。
「……もー、作りたいものがいっぱいあるっちゃあ!」
そのとき、夏田さんの話を遮るように、足元に温かい何かがすり寄った。
――かわいい。これ、夏田さんのネコですか。
「そうだよ。居着いちゃってねえ」
――名前なんていうんですか? やっぱり、スフィンクスとかアレクサンドリアみたいな名前なんですか?
「ああ? いんや、タマっていう名前だよ!」
――タマ!
夏田さんは今日も一人きりで、自身の理想郷を作り続けている(猫のタマと一緒に)。
こんな夏田さんの作品に会いに、この宮崎県美郷町にがやがやと多くの人が集う日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。
どちらにしたって、孤高に作品を生み出し続ける夏田さんの姿は、きっと幸せそうである。
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