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高齢化社会の課題に取り組んだエンジニアたち――「JDA 2016」(2/2 ページ)

» 2016年12月13日 09時00分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]
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重い果物の収穫をアシストする「TasKi」

 国内審査2位は、中央大学 理工学部精密機械工学科の山田泰之助教授が考案した「TasKi」だ。TasKiは、腕を長時間あげたままにして行う果実の収穫作業などをサポートする“道具”。ロボットやパワードスーツのような大がかりな仕掛けではなく、背中のリンク機構で手にかかる重力を軽減し、2kgほどのアシスト力を発揮するという。電源を必要としないことも“道具”という理由の1つだ。

「TasKi」はバネやヒンジといった機構の組み合わせでアシスト力を生み出し、腕の重さ(約2kg)を感じさせない

 山田氏は、農業を営む祖父母を見てTasKiの開発を思い立った。農家の平均年齢が65歳を超え、高齢化と後継者不足が問題になっているが、山田氏によると「高齢の農家は単に生活のために仕事を続けているわけではない」という。「農業は既に生活の一部になっていて、体力が劣ってきても続けている。しかし、大変な時期に手伝ってくれる人はいない」。中でも注目したのは、ブドウや桃などを高い場所で行う収穫作業。重い果実を自分の肩よりも高い場所で受け止め、慎重に運ぶ作業は肩への負担が大きく、「肩がガチガチになって動かなくなる人が多い」

おじいさんの言葉で高齢の農家が農業を続けている理由を説明する山田氏

 普段はロボットの研究をしている山田氏だが、TasKiは最初から複雑な電子機器ではなく、シンプルな“道具”にすると決めていた。複雑な機械は、駆動音や煩雑な操作、メンテナンスなども必要となり、それ自体が利用者のストレスにつながってしまう。だからシンプルな機構と使い勝手にこだわった。「TasKiは操作方法を憶える必要がない。つまり“着る”だけで機能を発揮できる。使用時にモーター音を出すこともなく、そのために壊れる心配も少ない」(同氏)

 現在の課題は、1.4kgほどあるTaskiの重量だ。「背負えば足腰に負担がかかるため、今後はまず軽くしたい。そして安く製造できるようにして、1万円以下で販売できたらいいと思う」(山田氏)

起業する動きも加速

 高齢化社会の中で生じた課題に取り組んだ2つの作品は、いずれも本気で製品化を検討している。今回で審査員を退くというエンジニアの田川欣哉氏は、「発明するだけでなく、ビジネスとして起業する動き」を歓迎しながら、同時に「BTC型」の重要性を説いた。

BTC型人材モデルの概要

 BTCとは、ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)という3要素を有機的に連動させることでイノベーションを生み出すアプローチ。製品のコンセプトを考え、試作品を作るだけではなく、仮説立案と検証のプロセスを迅速に行い、マーケットで受け入れられるものに仕上げるビジネス感覚だ。田川氏は、自らの経験を元に「起業などの際には、3つの要素をすべてやらなければならないことが絶対にある」と指摘。その上で、「ぜひ、今の状況をメモしておいてほしい。若い人たちがBTCの視点を持つことで“最強の人材”になるだろう」とエールを送った。

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