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「マニアック&ハイエンド」 麻倉怜士の「デジタルトップ10」(中編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2016年12月30日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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第4位:ビコムのUHD BDに対する取り組み

麻倉氏:第6位にUHD BDを選出しましたが、その中でも高画質ソフトメーカーであるビコムの取り組みは特に注目に値します。ということで、第4位はビコムのUHD BDへの取り組みです。

市販のUHD BDソフトをいち早くリリースしたことで知られるビコムの「宮古島」。ソニーPLCとの共同制作となった本作によって、UHD BDにおける高画質の指標が示された

――僕の昔の夢は新幹線の運転士で、かなり小さな頃から鉄道バカなんですが、ビコムと言えば鉄道映像の代名詞的プロ集団として鉄ちゃんの間で高い評価を受けています

麻倉氏:ビコムは鉄道だけでなく、実は世界一と言っても過言でない高画質風景映像の雄です。技術力が非常に高く、有名な鉄道モノのほかにもマニアックな高画質映像を多数発表しており、九州自動車博物館のコレクションを撮影した「日本の旧車」は、なんと3年もかけて製作しました。貴重な旧車を実際に動かしたこの作品ですが、整備を徹底したり雨で撮影が延期になったりと、製作にはなかなか苦労が絶えなかったとか。

 コダワリのエンジニア集団のため、年に一回、趣味と実益を兼ねた超高画質のこだわり映像を撮影するプロジェクトがあり、これまでも宮古島を含めた沖縄の風景映像を撮った、超高画質の南国映像シリーズなどがありました。DEGのブルーレイ大賞も常連ですね。明るく解像度の高いハイコントラストの映像を得意とする同社ですが、2013年にリリースされた森の映像はパッとしませんでした。カラフルで華やかな映像美とは異なる、じめっとして落ち着いた日本的情緒はイマイチ、不得意でした。

 ビコムが凄いのは世界初のUHD BDへ挑戦したことです。日本ではUBZ1のバンドルソフトとして出た「るろうに剣心」が、色んな意味で大変暗いHDRでした(苦笑)。といってもこれは市販されなかったため、市販のセルソフト第1号はビコムの「4K夜景」です。30pコンテンツでパナソニックの高感度バリカムを使ったものですが、これが大変な評判を呼びました。暗い中でのHDRによる色再現が素晴らしく、今ではすっかり4Kテレビにおける画質評価のリファレンス的存在です。

 それからの展開は早く、3月に4K夜景で4月に宮古島と直ぐにUHD BD第2弾をリリースしました。こちらはソニーPCLとの共同制作です。ソニーPCLにとっては4K+HDRの時代、特にHDRへの技術的チャレンジとして、これをUHD BDへのとっかかりにしたワケす。ビコムにとっては最も得意な南国の陽光を伴う極彩色の風景、しかも宮古島は2度目で土地勘もあります。

 本気度がかなり高いこの作品ですが、初期の企画段階では映像はオマケで、192kHz/24bit、5.1chサラウンドの風景音声や島の民謡などといったサウンド面のマルチチャンネル収録がメインでした。ところが超高音質の環境映像という構想だったところに、4Kに加えてHDRが出てきたので、急きょコレを試すことに。さらにソニーを製作に引き入れて、カメラはいつものパナソニックではなく、4Kで定番のF65を用い、特にHDRの良さを引き出すチャレンジとなりました。HDRは色が確保され、抜けないのが大きな特長ですが、朝日や夕日の輝ける光の彩や青空に浮かぶ白い雲の階調、あるいは光の当たる砂浜の粒がつぶれないかなど、光のチャレンジという様相を呈していました。

――共同制作な上に普段とカメラが違う、しかもまだそれほど経験のないHDRへの挑戦と、なかなかハードルは高そうです。それで、宮古島でのチャレンジのせいかはどうだったのでしょう?

麻倉氏:ビコムが4Kを、得意とする宮古島で製作すると、ここまでのディテールと色が獲得出来るのかという事に大いに感心しました。強烈な太陽に照射された砂の1粒まで見えるような、驚くほどの精細さです。沈む太陽の燃え盛る茜色、エメラルドグリーンのどこまでも深い海、などなど、従来のビコムに4KとHDRが加わるとここまでなるか! そういうような強靭で透明でハイカラーな、高画質の模範的映像でした。

紺碧の海と青空が映える砂山ビーチ。「太陽に照らされた白い砂浜は砂粒が見えるほどこうっ精細」と麻倉氏は語る
夕日の海に浮かぶ大神島。こういったシャドーとハイライトが混在するシチュエーションは、HDRが最も得意とするところ

麻倉氏:あちこちで評価されている本作は、私が審査員を務める先進映像協会の「ルミエール・ジャパン・アワード」でも4K部門のグランプリを獲得し、その他各社の賞も総ナメにしています。そういう意味でビコムのBlu-ray Discから10年続く高画質への取り組みが、次世代フォーマットのUHD BDで最初から花開いた訳です。

 この様に確かな評価を得ているビコムですが、実は今まで常連だったDEGのブルーレイ大賞でも、グランプリにはまだ手が届いておらず、山下社長いわくこれが相当悔いそうです。今回は専門クルーが居ましたが、山下社長自身もカメラマンなため、色んな現場で活躍をしたみたいです。山下社長は「UHD BDの最初は俺が取る!」という並々ならぬ意気込みがあったみたいですよ。

 上から下まで徹底的に高画質へのコダワリを貫く職人集団に4KとHDRを与えるとこんな素晴らしいものができた、そういう意味で4K宮古島は記念碑的な作品です。UHD BDとしての規範的な作品でもあり、日本の映像産業にも大変貢献したため、大きく評価をしたいと思います。

――個人的には是非ともホームグラウンドである鉄道分野での4Kソフトが気になります。来年は東西の豪華クルーズトレインがそろい踏みとなるので、そこはやはり期待したいです

 次回は2016年最後のデジタル閻魔帳、トップテン後半では番外編第2弾とトップ3を発表します。お楽しみに!

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