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有機ELテレビにみるソニーとパナソニックの大きな違い――CESリポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/6 ページ)

» 2017年01月24日 19時48分 公開
[天野透ITmedia]

――パナソニックはともかく、ソニーのビジュアルプロダクトといえば、それこそ何を置いても画質が第一じゃなかったですっけ? 特に新デバイスのOLEDですから、これは技術アピールをするのに絶好のチャンスですよね? それが「画質にほとんど興味なし」とは奇妙です

麻倉氏:一般的にはその感覚で間違いはないですが、今回の場合はちょっと特殊な事情が絡んでくるんです。もちろん画質に凝っても良いけれど、画質じゃなくて他のところに力を入れても良い。これがOLEDというデバイスが持っている懐の深さで、ここは次世代テレビで1つ面白いところでもあります。

 まずパナソニックから見ていきましょう。テレビメーカーとしてのパナソニックは、ブラウン管からプラズマへという流れを持つ自発光素子の会社です。今は液晶をやっていますが、これはまあ嫌々で、本来であればプラズマの後継にOLEDを据えていました。今はJOLEDに移管してしまったパネル生産事業ですが、2012年頃では印刷方式のOLEDパネルが「明日にも量産開始か」という量産秒読みの段階までいっていたんです。そういう意味では自発行に対する潜在的な憧れというか、「ウチは自発光カンパニーだ」という矜持はずっとあったわけです。

パナソニックが展示したOLEDテレビ「EZ1000」。展示スペースには「HOLLYWOOD TO YOUR HOME(ハリウッドがわが家に)」との文字が踊り、ディレクターズインテンションの再現を重視する姿勢がうかがえる

麻倉氏:パナソニックのOLEDテレビは2014年IFAが初出です。この時はLGパネルを使った65インチを出して「ウチはOLEDをやるよ」と意思表示をし、大変な評判を呼びました。その経緯に関しては前も話しましたが、プラズマの衰退を受けて仕方なしに液晶へ転換したところ、評価がガタ落ちして全然売れなかった。「やはり自発光でキッチリ評価してもらいたい」というところで出したのが、2015年の65インチ曲面テレビだったわけです。パナソニックはこの時から既に画質のことを強くいっていました。というのも、第1世代のLGパネルは黒にノイズがのっていて、暗部信号をカットすることでその対処した結果、階調がイマイチ良くありませんでした。これをそのまま使うとどうしても黒が粗い絵になってしまう、これは映像エンジンで何とか矯正しなければいけないとなった訳です。

 パナソニックは画質に対するアプローチを2方向から行いました。1つはLGディスプレイに技術者を派遣して、デバイスレベルでの画質改善を共同で行うというもの。もう1つはエンジン開発で、今あるデバイスの欠点を補いつつ長所を伸ばすにはどうしたら良いかというものです。これが第1世代のパナソニックOLEDでした。そして昨年のIFAで第2世代の試作機が出ます。この時に画質改善、とくに黒階調の改善に対する努力がここまで来たということが見られた訳ですが、今回は第2世代をさらにブラッシュアップした改良版を展示していました。真っ黒から光り出すタイミングで上手く電流制御をするのが難しいのですが(OLEDは一般的なLEDと同じく電流制御)、それに関しても上手くクリアしたようです。

――OLEDにおける暗部のコダワリについては、プラズマ時代に培ったノウハウが今になって生きてきたという話でしたね。技術に物語的なつながりが見えるというのはとても興味深いです

麻倉氏:何でもやっておくものです。例え今すぐ役に立たなくとも、本質的に無駄になることなど何一つないということでしょう。それが歴史を紡ぐことにつながるわけです。

 もう1つ、現状のOLEDパネルはカラーフィルターを用いた白色OLEDなので、パネルの垂直方向にRGBの層が並ぶという構造になっています。そうすると一番上の層が光を出すタイミングと下の層が光を出すタイミングは微妙にずれるため、正確に色を出そうとすると各層ごとにディレイをかけてタイミングを揃えないといけません。どうやらこれがなかなか難しく、ここに力を注いでいるそうです。

――各色同時制御ではダメで、バババッとずらしてやる必要がある、と。言われてみれば確かにというところですが、ナカナカに盲点です

麻倉氏:こんな細かい所になぜ力を入れているかというと、ここを改善しないと画質を上げられないからです。OLEDパネルは今のところLGディスプレイの独占供給なため(世界で唯一事業化しているバネルメーカー)、ここを改善することで他社と比較した際に最大の差別化となりますが、漫然と作っていても画質は決して良くなりません。ちゃんとこだわって作ることで「そういったものと比較してパナソニックは良い」という差別化されたブランドができあがるわけです。そういう意味でもパナソニックはやはり画質命といえるでしょう。

 加えて今回いっていたのは白階調です。デジタル映像信号において色は10bitのデータで表現されますが、各信号間の幅をどれだけ取るかというのはアナログの領域で、この階調の段差がRGBで合わないとノイズが出てしまいます。しかもノイズの出方は液晶と自発光でちょっと違うらしくパナソニックでは「自発光の場合の階調性をきっちり取らないといけない」と言っていました。ですがこれに関しては、プラズマの時を考えてみると条件はずっと良いんですよ。というのも、プラズマは元々光るか光らないかの二択しか表現できませんでした。そこにサブピクチャーを与えて擬似的に階調を作ることで、最終的にかなり高次元な絵を出していたんです。

 そういうことで、発表会の壇上でも「いかにウチが画質にこだわったか」に終始していました。一般的に 「OLED=高画質」といわれていますが、その割には粗が目立つので頑張ろうと。やはり画質コンシャスですね。今回見てみたところ、第1世代よりもはるかに良くなっており、第2世代の試作機だったIFAよりももっと良くなっています。今年出てくるOLEDテレビには期待をして良いと思います。

パネル、エンジン、調整という3段階で画質による差別化をはかるパナソニックのOLED。スライドの画像ではハイライト部のバンディングが抑えられ、なめらかな表現を実現したという

――なるほど、パナソニックの画質へのこだわりとその理由はよく分かりました。対してソニーは「画質“ノット”コンシャス」とのことですが、だとすると一体何を追求していたのでしょうか?

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