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有機ELテレビにみるソニーとパナソニックの大きな違い――CESリポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/6 ページ)

» 2017年01月24日 19時48分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:何とか打開策を見出だせないものかと困り果てていたソニーに対して、パネルを製造するLGディスプレイから提案が入りました。透明アクチュエーターを付けてパネルを振動させる「クリスタルサウンドOLED」というもので、渡りに舟とばかりにソニーが乗ったのです。ソニー名「アコースティックサーフェス」。

新技術の要であるアクチュエーターユニット(写真=上)。パネル背面の支柱に設置されている(写真=下)

麻倉氏:私は正直なところ、最初は“眉唾もの”かなと思っていました。ガラスCDからはガラスの音がするように、結局ガラスを振動させるとキンキンするような“ガラス的な”ペラペラした素材の音が乗ってしまう、そんな風に思っていたからです。ところがこれが意外と悪くはなく、4段評価でBといったところでしょうか。少なくともケチョンケチョンにけなす程ではなかったですね。スピード感を伴う音の量感が結構あり、スーパーウーファー付きで低音もキチッと出ているというのは凄いところです。そのスーパーウーファーですが、背面の平たい支柱に仕込むというなかなか凝ったデザインになっています。

 LGの提案には全帯域を出すかスーパーウーファーを付けるかという2つがあります。同じ技術でもLGディスプレイのスウィートでは凄く大きなスーパーウーファーを付けていて、低音振動を視覚的に見せるためにウーファーユニット上に砂のようなツブを撒いておき、音を出して躍らせるという演出をしていました。それに対してソニーはスーパーウーファーの存在感を上手く消しています。物理的には別ユニットにした方が有利ですが、壁掛けでも少し隙間を開けると充分な低音が出てきます。

「A1E」を背面から見た様子。ついたての役割を果たす背面の支柱が幅広にあてがわれており、ここにスーパーウーファーが仕込まれている

 このデバイスの特筆点は、画像と音像が初めて一致したテレビということでしょう。これは結構凄いことで、今までの下向きスピーカーだとどうしても上下に距離ができてしまうという問題点がありました。心理的には画像に音像が引っ張られる誘導効果が働きますが、それが完璧には一致しないため、どこか不自然な感覚が抜けきりません。あるいは古典的な左右設置の場合だと、よく知られているステレオ効果で中央に“ファントム音像”ができます。

 しかし、これは擬似的に作ったものであり、その場所から音が出てくるわけではありません。これらに対して今回は前面のパネル自身が直接音を出すため、画像と音像が完全に一致するのです。パネルの振動は画面の上半分に設置された左右2つのアクチュエーターから生成されますが、これの驚くべきポイントは、“左右に鳥が動く”という映像で、鳥の動きに従って音像が一致して動くという点にあります。パネルは全面で振動しており、ローカルディミングのように部分駆動をしているわけではありません。にも関わらず、なぜか画面のピンポイントで音が出てくるのです。

――えー、そんな器用なことをするんですか!

麻倉氏:おそらくDSPを使った音場生成技術が入っているのではないかと私は睨んでいるのですが、いずれにしてもちょっと不思議な体験をしました。これが深い意味を持つのは、画像が発せられるその場所から音も発せられるという点です。OLEDは自発光でその場所から光が出ていて、それに加えてこのパネルは自発音でもあります。現象学的に一致するだけではなく、より心理学的な面で深い意味を持つ二次元画面が生まれたわけです。目の前に確かな実在として人がいて、そこから話すというのが我々の自然な体験ですが、これと同じ体験がテレビによって可能となりました。

 90年の歴史を持つ電子テレビの中でも、これは史上初のテレビといえるでしょう。ここからは1点放射型の音というものが考えられ、もしかしたらコンテンツの作り方そのものにまで影響が出るかもしれません。今回はOLEDに特別な魅力を加えるための試みとして採用された機能ですが、とても大きな広がりを持ちそうな可能性を感じますね。

――確かにこの技術には映像文化の未来を感じますね。これは気になります、是非国内で体感してみたいです

麻倉氏:ところでこの機能ですが、実は今のところOLEDでなければ搭載できないんです。

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