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有機ELテレビにみるソニーとパナソニックの大きな違い――CESリポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(6/6 ページ)

» 2017年01月24日 19時48分 公開
[天野透ITmedia]
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――パネル面をドライバーユニットとするならば液晶でも実現できそうですが、ダメなんですか?

麻倉氏:ダメなんですよこれが。というのも、構造としては支持板の平面があり、そこにアクチュエーターが付いているというものです。OLEDパネルはアクチュエーターの前に置かれていて、アクチュエーターの部分には穴が空いており、振動を前のOLED板に伝えるためのポールのようなものでつないでいます。つまりアクチュエーターの振動を伝えるために穴を開ける必要がある訳ですが、バックライト発光を要する液晶では穴の部分の光が漏れるという問題が出るため、この構造は採用できません。液晶でやるとするなら、エッジライトのようにサイドにアクチュエーターを仕込む必要があるでしょう。対して自発光のOLEDならば背面構造を気にする必要がないため、今回のように支持板に穴を開けるといったことも可能です。設計変更や調整に時間を要するため、おそらく当面はOLED専用のものになるでしょう。

――確かにデバイス単体でモニターが完結するというOLEDの利点を活用した構造ですね。納得です

パネル面から音を出す「アコースティックサーフェス」技術の構造。アクチュエータとパネルをつなぐのにバックカバーを貫く必要があるため、現状の造りのままでは液晶パネルに搭載できない

麻倉氏:問題としては画面が振動するため、映像が震えないかという当然の懸念が出るところですが、これに関しては開発段階で徹底検証をしています。イメージ的には絶対に画質に悪影響が出ると思われます、しかし低周波は目に見えて震えるものの、スピーカーのツイーターユニットを見ても振動を見分けられないように、高周波の極めて微細な振動は感知しにくいのです。ここで別途装備しているスーパーウーファーが効いてきます。

 画質にこだわる代わりに“画像と音像の一致”にこだわった、それが今回のソニーにおけるOLEDの特長です。最も、私の個人的な願いとしては「そんなこといわずにもっと画質に力入れてよ」というところで、ソニーさんには「X550の細密制御回路を合理化してオンチップ化するとかどうです?」といった提案もしています。でも広い目で見てみると、OLEDには画質だけにとどまらない、さまざまな未来があるわけです。

 今回の例ではクリスタルサウンドOLEDを挙げましたが、これに限らずパナソニックが提案している透明ディスプレイなど、機能性を持ったディスプレイという発展も考えられるでしょう。そんな機能性の利点を伸ばすものとして、おそらく来年は“巻き上げ式”または“ホンモノのQD OLED”試作品が出てくるのではないでしょうか。今回はたまたまパナソニックとソニーという日系2社でしたが、OLEDが持っているさまざまな展開の可能性を見られました。

映像と音の一体化は「A1E」シリーズの大きなアピールポイント。映像と音像が完全に一致し、映像が動くとそれに伴って音像も動く「史上初のテレビ」だ。麻倉氏は「コンテンツの作り方そのものにまで影響が出るかも」とその可能性を指摘する

 OLEDでもう1つ注目すべきはやはりLGエレクトロニクスです。今回はマグネットで脱着できる壁紙テレビを提案していました。これは1年くらい前から「ウォールペーパーディスプレイ」という名目でLGディスプレイが各社に提案していたもので、まあLGディスプレイとLGエレクトロニクスの関係ですから、やはり最新のOLEDを使う義務がLGエレクトロニクスには出てくるといったところでしょう。パネルの厚みは0.9mm、保護層としてガラスを貼って2.57mmという極薄モニターです。設置にはまず壁にマグネット板をはり、そこへペラリとパネルをはり付けます。映像回路はDolby Atmos対応のサウンドバーにまとめています。

――今までの壁掛けテレビは壁に専用のアタッチメントをネジ止めする必要がありましたから、これがマグネットでOKとなると壁掛けに対するハードルがかなり下がりますね。マグネットは両面テープでもはり付けられるので、原状回復が求められる日本の賃貸住宅でも導入できます

麻倉氏:問題は回路とパネルをどうつなぐかで、ここまではまだ詳細を出していませんでした。サムスンも似たような壁掛けディスプレイを液晶で出していましたが、こちらは1本のケーブルでつなぐインタフェースを提案しています。

 この極薄ディスプレイの可能性としては、パネルをはがして持ち運べるというところです。現状は保護層がガラスですが、ここも重量や強度あるいは曲げや割れにくさなどを開発しているところでしょう。これもひとつ、カタチの可能性という提案です。この様にOLEDがこれまで提案していた新しいテレビとしてのカタチを結構見せてきたなというのが、今年のCESの大きな見どころでした。

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