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話題の「BALMUDA The Gohan」――“蒸気炊き”に辿り着くまでの長い道のり滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)

» 2017年02月08日 00時01分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 「冷凍ごはんって、どうしても照りがなくなってしまうのです。それを補うために油を添加する必要があるんですよね。でも、その瞬間、原材料には“油”という文字を入れざるを得ない。油の入ったごはんなんて、多くの人はいくら美味しくてもイヤですよね」

卵とごはんのハーモニーが楽しめる卵かけごはん

 「BALMUDA The Toaster」が最高の香りと食感のトーストを生み出すなら、「Balmuda The Gohan」は最高の香りと食感を実現する感動のごはんを生み出さなければならない。その美味しさを実現するためには、どうしたらいいか? 炊飯器の炊飯方法や常識にとらわれることなく、あらゆるやり方でごはんを炊き続けた末、1つの解を導き出すことに成功した。それが“蒸し炊き”というアプローチだった。

一回り大きなアルミ製の外釜とごはんをセットするステンレス製の内釜

 「美味しいごはんを炊くにはエネルギーが必要です。しかし、ガスの火力と比べると電力は1/3しかエネルギーを持っていません。つまり、電力で炊くこと自体が、ごはんを美味しく炊き上げるには不利な方法なのです。どんなに釜を厚くして熱をため込んだとしても、なかなか釜の内側全体に熱を届けるのは難しい。そこで電力で直接釜を温めるのではなく、水を加熱することで蒸気を発生させ、効率よくしっかりと熱量を加える構造に辿り着きました」

バルミューダで炊飯器の開発に携わった唐澤明人氏

 開発のスタートから完成まで約18カ月。話題の炊飯器「Balmuda The Gohan」が誕生した。これを手がけた開発チームのメンバーの1人が唐澤明人氏。驚いたことに調理家電の開発を担当するのは今回が初めて。ちなみに前職ではコードレス電話機や無線機の開発していた。

 「調理家電の開発はまさにゼロスタートでしたが、だからこそ“炊飯器の常識”を疑うことから始めました。例えば、既存の電気炊飯器では甘みの強さやおネバなどが注目されていますが、そういう味がイヤで、炊飯器を使わずに土鍋で炊いている方もいます」(唐澤氏)

 お米を煮てみたり、レンジでチンしてみたり、さまざまな炊き方の試した。さらに釜飯専門店に無理をいって白米を炊いてもらったりもした。会社の一角で、液体窒素を使って冷凍ごはんを作ったこともあった。しかし、紆余曲折を経て再び炊飯器の開発に戻る。

 「人が何をもって“お米が美味しい”と思いますか? 味の好みは十人十色です。大事にするべきはどこなのだろう? と、ひたすら考えた結果、一般的な炊飯器でいわれている甘みやおネバが重要なのではなく、実は食感こそが重要であると確信しました」

 直接、内釜をヒーターで温めるわけではなく、外釜に水を貯め、そちらを温める。蒸気を生み出し、蒸気で間接的に内釜を温めることで、必要な火力を得る。

 「現在の炊飯器は、“強火”といいますか『どれだけ火力を与えるか』『いかに沸騰させて対流を起こすか』がトレンドになっています。でも、われわれはまったく考え方が違います。そもそも100°Cの蒸気で包んで炊くため、内釜のお米や水は沸騰させません。高温状態のスチームで米と水を包んであげると、60°Cを超えたあたりから米は急激に水を吸い始めます。沸騰する前のお湯をどんどん吸い込み、お米の形は崩れずに炊きあがります。お米の旨味は流れ出ず、残っているわけです」

外釜が加熱されて、セットした200mlの水が水蒸気となり、蒸気が 内釜全体を包み込む。この蒸気の熱で炊飯する
一般的な炊飯器と比べた場合の温度変化。バルミューダではゆっくりと温度が上昇し、100°Cを超えないのが特徴

 釜の中の米と水を蒸気で包んで炊くことで、食感を出すという方法に辿り着いた。「蒸気で炊くと、ただ固いだけじゃなく、粒感を残しながら中までしっかりと熱が入ります。普通の炊飯器で水を少なくして炊いたような、ただ固いだけのごはんとは違う粒感が生み出されます」

 羽釜に水を張り、お米の入った丼を入れて炊いたのが、この方式の最初の試作機だった。アイデアも目指す味も固まったものの、その後はなかなか安定して炊けなかったという。

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