――今回のCESではHDMIバージョン2.1というインタフェースの改訂もありましたね。これに関してはどうでしょう?
麻倉氏:今回のバージョンアップでは8K対応が大きなトピックです。これまではモバイル用の「superMHL」がHDMIに代わって8Kのデファクト・スタンダードになるかと見られていましたが、どうやらそうではなく、現行のHDMIのままでいくみたいです。元々携帯機器向けに開発された規格の発展形であるsuperMHLは端子がリバーシブルで上下の向きに関係なく差し込むことができますが、ホームコンポーネント向けが出発点のHDMIは山型で物理的に差し込む方向が決まっています。これが機材の背面に差し込む時にはなかなか難しく、8Kを機会に直してほしいと思っていたのですが、どうやら交渉のテーブルではあまり議題にならなかったみたいです。リバーシブルにならないというのは個人的にはとても残念です。
ところでHDMIは今回のCESでようやくバージョンアップがアナウンスされたわけですが、実はこのバージョンアップはいわれ始めてから3年ほどかかっています。なぜかというと関係者の数があまりに多く、中にはライバル陣営にあたるDisplay Portの関係者も居るため、さまざまな思惑が錯綜するのです。それを調整するのに随分と時間がかかったわけです。
――一方のMHL陣営はわずか5社で小回りが効くという事情もありますが、検討を始めてから3年というのはちょっと鈍重ではないでしょうか。HDMIアライアンスの運営が少々心配になります……
麻倉氏:今回の規格ですが、解像度は10Kまで、フレームレートは120fpsまで、それぞれサポートします。この数字は相当先を睨んだ規格ではないでしょうか。さらにもう1つ大きなトピックは、ドルビービジョンのようなダイナミックメタデータに対して、それ専用の経路を作ったことです。ドルビービジョンは現行HDMIに適合させるために、専用経路ではなく映像データそのものにメタデータを埋め込んでいます。これから将来的に新しい規格が出て来た場合でも、この経路を活用することでより良い映像が得られるのではないかと期待できるでしょう。
もちろんドルビービジョンがアップグレードする際にメタデータはこの経路を使うようになることが予想されます。将来的にデコードのやり方も簡単なものに変わってくるわけで、8Kはどうするのとかいった段階で、例えばドルビービジョン2みたいなものが出てきてより精密な信号処理をするという時に、こういう規格が整備されていると有利ですね。
麻倉氏:インタフェースというと、IoTの世界では新たなインタフェースとして音声入力がアメリカで盛んに開発されてきています。クラウドベースの人工知能「Alexa」(アレクサ)を使った「Amazon Echo」というスマートスピーカーデバイスを2014年にリリースしました。「Alexa、今日の天気は?」といったように呼びかけると、検索や操作をしてくれるというもので、いわばAppleの「Siri」やMicrosoft「Cortana」とかのアマゾン版です。
――アマゾンはEchoシリーズの販売数量を明かしておらず、日本でもまだ使えないようですが、どうやら結構な数が売れているみたいですね。音声入力は自動車やドローンなどと相性が良いらしく、サムスンやファーウェイ、フォードなどがAlexaの搭載に乗り出しているらしいですよ。Alexaの名前が古代エジプトのアレクサンドリア図書館に由来するというのもなかなか面白いです。
麻倉氏:そのEchoに関する笑い話があるんです。例えば「Alexa, buy a doll.(アレクサ、人形を買っておいて)」と話しかけるとアマゾンで“ポチる”のと同じ操作が行われるわけですが、これによる誤買が続出したため「“Alexa, buy a doll.”と言わないように」というニュースが流れたらしいです。ところがこのニュースを多くのEchoが聞きつけてしまい、件の人形に注文が集中したとかなんとか。
――それなんてコントですか(笑)
麻倉氏:面白いでしょう? 実は音声認識AIに関する笑い話はもう1つあるんです。Echo同じようなもので、Android OSにも搭載されている“Googleアシスタント”の機能を持つスマートスピーカーデバイス「Google Home」があるのですが、この2つを置いておいたら何やら勝手に対話をし始めたとかいう話もまことしやかに囁かれているとか(笑)。われわれの知らないところでAIだけの世界というのが着実に構築されつつあるのかと感じましたね(が、今はまだ笑い話です)。
まあ、そういったお笑い話はさておいて、こういった話はつまり識音能力がかなり高まったということです。加えてこれらのAIはクラウドで処理をしてビッグデータで誤り訂正をかけるため、認識と処理の正確性が高まってきています。これはタイプライターやタッチパネルに変わる第3のインタフェースになりうる、つまり声だけで機械を操作するという未来を示唆しています。でも現状ではどこを見て喋れば良いものやら、何か不自然な感じは拭えませんね。
麻倉氏:ビジュアルとインタフェースに関連して、ソニーが提案した“It’s all hear”も挙げておきましょう。「Life Space UX」で出てきた超短焦点4Kプロジェクターの新型がかなりコンパクトになりました。「全てのコンテンツが壁にある」というシチュエーションをイメージしたコンセプトで、例えば本屋に行って本を色々と眺めるように次々と書影を映す、あるいは映画や音楽が並んでいてその中から好きなものを選ぶといった使い方を提案しています。コンテンツを選ぶにしても大きな画面から選び、その選び方も自分の好みに限らず、たまたま本屋に入って目に止まったものを選ぶ、いわゆるジャケ買いのようなコンテンツとの遭遇を演出するものです。
――家庭に居ながらにしてジャケ買いを楽しむとは、なかなかぜいたくなコンテンツ消費ですね。「消費文化ここに極まれり」といったところでしょうか。
麻倉氏:ソニーブースでは「4Kディスプレイは画素数が800万画素、ということは800万の映像から選ぶんですよ」という変わった説明をしていました。さずがに4K画面に800万もコンテンツを並べると1つ1つはただのドットになってしまいますが、もう少し拡大して1画面に3000コンテンツぐらいの大きさになると各々を識別することができるようになります。その中から好きなものを選ぶという、大画面でコンテンツとの遭遇を演出するインタフェースはなかなかに面白かったです。
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