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なぜドルビービジョン対応製品が増えたのか?――CESリポート(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(6/6 ページ)

» 2017年02月13日 16時07分 公開
[天野透ITmedia]
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パナソニックに聞いたベルリンフィルとの提携の内訳

麻倉氏:オーディオ関連でもう1つ、今回のCESではテクニクスとベルリンフィルの提携がより具体的になりました。発表によるとベルリンフィルはパナソニックから単に4K機材の提供を受けるのですが、それだけではなくテクニクスの優秀なエンジニアを“トレーニー”(訓練を受ける側の人)としてベルリンフィル・メディアへ派遣するとのことです。つまり前回のIFAの際に取材をしたあのスタジオで、フランケさんの指導を受けながら、音のバランスやマイキングあるいはミキシングという、コンサートを再現するための具体的な音作りを学ぶということです。トレーニーは4月から2カ月間の予定で、その成果をテクニクスの音創りに反映します。このようにベルリンフィルが持っている音楽的な価値をどのようにテクニクスへ取り込むかということがハッキリしてきました。

テクニクスとベルリンフィルの協業について、その真意と目標を取材する麻倉氏。今回のプロジェクトが他のオーディオメーカーと大きく異なるのは、最終的に目指す場所が“スタジオ”ではなく“コンサートホール”という点

――ビジュアル関連では深い造詣を持っていたパナソニックですが、音楽の面でもその哲学が深化しそうな予感です。このプロジェクトは是非応援したいですね。

麻倉氏:オーディオメーカーは自分たちの感性に従って独自に音作りをしていくわけですが、それは再生側での1つのやり方であり、オーディオでここまでアーティストに寄り添うメーカーはなかなかありません。パナソニックは映像分野において、ハリウッドではカラーリストに色を聞き、それをテレビでどう再現しようかと試行錯誤してきました。今回のプロジェクトもこれと同じ発想で、ベルリンフィルが作っている音の特徴をデジタル信号の中からどのように取り出し、最終的にリプロダクションするかを狙っています。そしてこれをやろうとする場合、初めの音を知っているか否かが大きな違いとなるのです。初めを知らないと出てくる音は単なる想像にすぎませんが、初めを知っていると過不足を明確に指摘して補正することができます。そういう意味ではオーディオメーカーとしてこれまでのやり方にとらわれない新しいやり方です。これは凄く面白い動きなので私としても大きく期待したいです。

取材に臨んだテクニクスの首脳陣。左から小川理子氏、麻倉氏、井谷哲也氏、小塚雅之氏

麻倉氏:CESとIFAとを比べると、「システムをいかにユーザーへ届けるか」というIFAなのに対して、CESは「新しいもの作りました」「最先端の魅力はこれだ!」という直球的な訴求が見られるという方向性の違いがよく見えました。OLEDやHDRなど、新たな映像の潮流がここから出てきて再定義され、それが横に広がっていく。そんな流れが今年もすごくあったと思います。

 実は今年は、私の取材期間が例年より1日少なかったんです。いつもは会期中の3日か4日は取材に出向くところが、今年は会期中2日しか滞在せず、非常に忙しかった。でもその分だけ密度を上げて見ていると、表面的に“見えている”あるいは“見せている”部分から、その裏側にあるメーカー側の考えであるとか、時代の流れであるとか、世界観の変容がよく分かったと感じます。もちろん毎年このような収穫をしていますが、今年は今年でまた違ったものが得られたのではないかというところで、新年のCESを締めくくりたいと思います。さて、今年はどのような事件でわれわれを驚かせてくれるでしょうか。

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