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“テレビを見ない世代”向けの番組とは?――「miptv2017」リポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2017年04月24日 20時17分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:そのような違いはコンテンツにも表れています。ミレニアル世代が好むコンテンツとして、X-Sportsやクリケットの中継、リアリティ・ゲームショー(孤島サバイバルゲーム)、エクストリームジャーニー(極地探検)などなど、バイタルでビビットな、刺激の強いコンテンツが中心です。高画質といえばまず取り上げられるような、従来の美術番組的なものから決別という点がとても印象的に感じました。

放送局のテーマの1つが“冒険”。活動的で好奇心旺盛な若者に向け、刺激的なハイクオリティーコンテンツを制作し続けている

――うーん、地域を限定しないとはいっていますが、内容を並べてみてみるとどうにも欧米主義的なところが見え隠れする気もしますね。まあ日本という地域が極めて特殊だからということもあるでしょうが……

麻倉氏:会場のデモでは、競技用大型ラリーカーによるヒルクライムを扱った「King of the HAMMERS」という番組をやっていました。コースのダートは褐色ですがマシンはビビッドな原色で、4Kの精細感だけでなくHDRが持っているコンテンツとの適合性を強調していました。内容も活動的ですが、画質もHDRを使って色のエモーションを強調しようとしているようです。

CEOのRian Bester氏。若者向け放送だけあって経営者も若手で、従来的な価値観にとらわれない展開を見せている

麻倉氏:次にお伝えするのはNatureVision TVという放送局です。先程とは正反対で、こちらは4Kで景色をマッタリという内容です。

 ちなみにスカパーには「LandSkip 4K」という似たコンセプトのチャンネルがあり、4Kを含めたマルチデバイスで見ることができます。ここは、各地に散らばっているハイアマチュアやセミプロたちの組織を作っているのが特徴です。写真と違い、動画撮影の愛好家には作品発表の場が少ないという大きな問題があります。LandSkipはそこに目をつけ、自社コンテンツとして彼らにコダワリの映像美を追求してもらっているというわけです。

――なかなか面白いことを考える放送局ですね。両者にとってwin-winのやり取りです

麻倉氏:セミプロを使うわけではないですが、デンマークやノルウェーでは暖炉を一日映すというものや、あるいは列車の前面展望をひたすら流し続けるスローテレビもあります。

 NatureVisionも同じように4Kで景色を流す放送局で、実は昨年も取り上げたのですが、カナダの大手音楽コンテンツプロバイダー「スティングレイ」の傘下でやっています。Jon Gorchow CEOは、「われわれはアンチテレビチャンネル。ストレスを与えません。1番組は基本的に1時間ですが、海や山などを24時間流しています。これはまさに世界に通用する真のユニバーサルコンテンツでしょう」と話していました。

――若手音楽家の未発表曲と風景映像を組み合わせたチャンネル、でしたっけ。BGMやBGVとしてなかなか使い勝手が良さそうだと感じます

麻倉氏:こういったコンテンツは本物感が重要です。これまではスペックの限界などで偽物感があり、景色の中に取り込まれるといったことが難しかったのですが、しかしここまでの高画質と色の絢爛(けんらん)さがあれば没入感が高まり、リラックス効果が出てきます。SDなどの低画質では無かった価値が、高画質によって生まれるのです。

 会場のデモで、森林の景色は緑のグラデーションや空との対比、細かな木々の模様にリアリティーがありました。海では波しぶきの細かさや岩のゴツゴツ感に、海岸線を目の前にした感覚があり、湖は静謐(せいひつ)で、透き通った湖面に映る山がリアルとファンタジーの両面の感覚を呼び起こしました。朝日は光のビビットさや波の細かな情報が動画を通して伝わりました。

 会場では「このようなマッタリコンテンツにどんな反応があるか?」という質問が飛んだのですが、これの切り返しがなかなか面白かったですよ。『ユーザーは寝ているから反応なんてない』と。どこまで冗談か分からないですが(笑)

こちらも従来のテレビの概念をくつがえす「NatureVisionTV」。壁掛けテレビで流しっぱなしにしていると“常に変化する風景画”になりそう。テレビがどんどん薄型化している時代には、こういうコンテンツの捉え方もアリかもしれない

麻倉氏:Fashion News Lifestile、ここは4Kのファッション専門チャンネルです。15年前にSDでスタートし、HD、4Kと進化してきました。

 世界のファッションショーのみならず、その背景にある専門家や評論家、デザイナーなどへのインタビューなどの番組を手がけています。インサイド/アウトサイドの総合的なファッションシーンを追うというのがここの姿勢ですね。

――ファッションデザイナーというのはナカナカに面白い人が多いですからね。世界的デザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッド女史などは、2015年に自国のシェールガス採掘に反対し、英国首相官邸に戦車で乗り付けて当時のキャメロン首相に講義したという活動が話題になりました(笑)

麻倉氏:面白い話題ですがそれはさておき(笑)。同局は4K化でさらに評価が高まっています。実は日本のひかりTVでも同様のものをやっているのですが、生地の質感や細かな装飾が重要なファッションと4Kは親和性が高いということは間違いありません。

世界中のファッションシーンを追い続ける専門チャンネル「FNL」。単なる新作情報だけにとどまらず、デザイナーやスタイリストなどへのインタビューでコレクションを深掘りする。デモでは日本でも広く展開しているスペインのブランド「デシグアル」の、ランウェイの舞台裏をリポートしていた

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