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“TOKYO 2020”に向けて開発が進む8K&HDR技術麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2017年07月21日 17時10分 公開
[天野透ITmedia]

薄型130インチ8K OLED

麻倉氏:次は0.9mm厚のLGディスプレイ製65インチ4Kパネルを4枚並べた“薄型130インチ8K OLED”です。実際には構造物が1mm入るので約2mm厚ですが、それでも常識破りの超薄いシート型130インチ8Kディスプレイには驚かされます。

 同じようなものは昨年も展示されていましたが、LGディスプレイ自身の進化もあり、今年は120HzとHDRに対応しました。色域のBT.2020にはもう一歩達していませんが、着実に進化しています。私の印象からすると、確かにコントラストが上がっていて、前面パネルのグレア率も向上しているのではと感じました。その反射も加わって、非常にシッカリとした解像感がありました。

OLEDを使った従来の常識をくつがえす薄さのディスプレイ。わずか2mmという数字に未来を感じる

――LGディスプレイのシート型OLEDは何度か見ていますが、あの大画面と薄さには「明らかに時代が違うぞ!」という“未来感”があります。何というか、薄い画面に映る鮮やかな映像が、未知の体験に対する夢をかき立てます

麻倉氏:OLEDがスゴいと思うのは「どんなに薄くとも画質は同じ」というところです。今LGエレクトロニクスはOLEDテレビを6機種出していますが、実は価格が相当違っても画質は同じなんです。これはつまりパネルは全く同じで、付加価値の部分で価格的なグレーディングをしているということです。なので今回のような、ものすごく薄いパネルを4枚使ったとしても、画質の均一性は非常に高いわけです。

OLEDの改良

麻倉氏:OLED自体の進化に関する展示もありました。一般的には回路層の下に発光層を成形しますが、これを逆構造にした“トップエミッション方式”への試みです。

トップエミッション方式OLED。回路などの障害物がないため、発光効率を高められる。イメージとしては裏面反射CMOSセンサーの出力版だ

――イメージセンサーに裏面反射という技術がありますが、これの出力版のようなイメージですね

麻倉氏:BT.2020の色域は緑が広くとられており、これを充分に出すのは難しかったのですが、トップエミッションでは発光層の前の障害物がなくなるために色純度の高い緑発光が可能となり、緑の発光効率がBT.2020比で95%程度にまで近づきました。

 これが難しいのは製造工程の複雑化による歩留まりの問題です。加えてトップエミッションでは光の方向が狭まって視野角が出てしまいます。

――自発光なのに視野角……

麻倉氏:RGBの多層構造の中から光が出るため、距離の関係で、光の出方が不均一になるのです。光の出方の制御がかなり難しいので、ここをどうするかというのが大きな課題となるでしょう。ですが物理的にはメリットがあるので、今後の展開を注視していきたいです。

QLED

麻倉氏:デバイス関連の研究でもう1つ「環境に配慮した量子ドット素子」というパネル展示も見逃せません。今はOLED、つまり有機ELが盛んですが、業界が次を見据えているのはQLED、つまり量子ドット(Quantam Dot)LED。これは特定の原子に光が当たると波長が変わるという量子力学の現象を利用した、光の入力波長を変換して出力するという技術です。

「環境に配慮した量子ドット素子」というパネル展示。有機素材を使ったQLED、つまり“QD OLED”で、環境負荷が低いことがアピールポイントだが、カドミウムを使った従来のQD素材と比べると、発色の鮮やかさはいまひとつ。今後の技術革新が望まれる

――日本では製品展開されていませんが、ワールドワイドではサムスンが液晶テレビの分野で幅を利かせています

麻倉氏:それはQLEDといいますが、マーケティング用語で、単なるLEDバックライトのQD液晶テレビです。それはともかく、本物のQLEDは自発光という大きな特徴があります。自発光で純度の高い色を出せる層を持ったデバイスというのが現在の段階で、QD素材自体は無機ですが、そこ以外は有機素材という、“有無”を言わせぬハイブリッド構造です。これの問題は素材にカドミウムを使っていることで、イタイイタイ病などで知られる通り、毒性が高い物質なので量産品には使えません。

 今回の研究で試されたのはZAIS(スズ、亜鉛、イリジウム、硫黄)という混合素材です。確かに3原色は出ていたのですが、残念ながら比較対象として置かれていたカドミウム型の方が明らかに良い発色でした。それは研究チームも理解していて、今後はこのZAISをメインに色純度と効率をいかに上げるかが研究課題になると話していました。

 ですがこの方式にはひとつ、“作り方が印刷方式”という大きな注目点があります。JOLEDが印刷方式で21型のOLED量産に成功したため、時期的にもちょうど良いですね。オリンピック後の時代は、このQOLEDが大本命のデバイスになることが期待されます。

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