麻倉氏:このように様々なコンテンツを観て、プロジェクターは直視にない、自然な意味での生っぽさがあると分かりました。
麻倉氏:シュートアウト後のセッションでは、ソニーの小倉さん、キューテックの今塚さん、NHK技研の正岡さんが、それぞれの立場から問題提起をしていました。中でもカラリストの今塚さんが4K HDRの色を作る時の、現場の話には考えさせられました。4K HDRは情報量が増えてリアリティが増すとよく言われていますが、現状では視聴者側がその感覚にまだ着いて行けておらず、SDRのドンシャリ系のほうがスポンサーや一般にはウケが良いと言うのです。
――言うなれば玄人受けの画調でしょうか。良いものを知らないと何が良いか判断できない、これは結構大きな問題です
麻倉氏:HDRは階調の細やかさを出す、画のパワーを階調にもってくる技術です。しかし従来はデバイスの限界から「パワーはそれほど無いが細かな情報が出るならいいだろう」としていました。ここには思想的な飛躍が必要です。従来的な黒を沈めて白を伸ばす、むしろ「白はトんでいるとパワー “感”が出るぞ」という絵作りのコモンセンスから、どのようにHDRの良さを訴求するかが、画質に携わる人間のこれからの課題でしょう。現場は結構苦労しているんだなと感じたところでした。
麻倉氏:ところで、君は今回客席から見てみて、どんなことを感じましたか?
――えっと…… やはり先生が度々指摘した「生っぽさ」というのが印象的でした。宮古島などはディスプレイとかスクリーンとかじゃなくて、まるで窓を眺めているようにも感じました
麻倉氏:それの原因は直射と反射の光源の違いによるものではないでしょうか。自然の景色は太陽以外のほとんどが反射光でできていますから。液晶テレビには延々と景色を映す“窓アプリ”などというものもありますが、テレビは直射デバイスなので矛盾が出ます。
――直射光と反射光という点に関しては僕に1つ案があるんです。会場でも提案しましたが、液晶またはOLEDのパネルにプロジェクターを投映する“ハイブリッドシアター”を造ってみると、直射と反射を完全に再現することも理論的には可能じゃないでしょうか。もちろん詳細なコンテンツの分析や、超精密なセッティングなどが必要で、ホームシアターではかなり厳しいかもしれないですが、これが例えばハイグレードな映画館だとしたらどうでしょう? 高輝度部分では、液晶の4000nitsも越えられるかもしれませんね。あるいはOLEDや液晶パネルが価格的・技術的に厳しいなら、スクリーンを白黒のeペーパーにするだけでも随分と違った絵が出てくるかもしれません。これだと反射光オンリーで、現状ではeペーパーの応答速度にも問題アリですが、現状の白一面のスクリーンよりもダイナミックレンジの拡張が狙えそうです
麻倉氏:君はなかなか凄いね。ソニーの小倉さんが「そのアイデアいただき!」と言っていましたね。テレビは4K HDRのOLEDまで来て、一見すると終点が見えてきたようにも感じますが、その重ね合わせのアイデアでいくと、もうひとつ違う上の段階に到達できそうな気もします。こういった発想はおそらくHDRになったからこそ出てきたものでしょう、以前はハイの部分はトんでいましたが、HDRによってそこが出るようになりました。だからこそ「もっと出せるのでは?」という考えも湧いてくるのです。
スクリーンを直射型にするハイブリッドシアターは究極的ですが、まずは現状のスクリーンの上に高度なHDRで絵を出してみると、自発光的な質感が出るんじゃないかという気もしますね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR