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各社の違いはココだ! 麻倉怜士の有機ELテレビ画質比較教室(2/5 ページ)

» 2017年08月22日 11時29分 公開
[天野透ITmedia]

 では、なぜLGディスプレイだけが生産に成功したのか。これはひとえに、本格生産に対してリソースを徹底的にかけたということに尽きます。ディスプレイ事業の全てをOLEDにベットしたと言っても過言ではない、とんでもない賭けに出たのです。そのためLGディスプレイでは、全体でチームとして頑張る“匠”の時代が再来しました。LGディスプレイのOLEDスタートは2008年頃からで、この頃は当たり前のようにディスプレイメーカーがどこもかしこも手がける。が、結局成功したのはLGディスプレイだけなのは皆さんも知る通りです。

――“元祖有機EL”のコダックとタッグを組んだ三洋電機に至っては、“大コケ”と言うのも生ぬるい失敗をしてしまい、会社そのものが吹っ飛んでしまいましたね…… 三洋は極端な例ですが、そのくらいのリスクを伴う事業なことは間違いありません

麻倉氏:LG勝因の戦略として、白色OLED+カラーフィルターの選択が大きいですね。これならマザーガラスで作れて生産性が上がります。一方サムスンがチャレンジしていた3原色サブピクセル方式は、確かに色は良いですが細かいマスクがあまりに難しすぎて生産性が上がらず、マザーガラスでは無理で枚葉取りにならざるをえません。もう1 つは大型化で、これはマザーガラスでないと無理で、枚葉取りは56型くらいが限界です。一方のマザーガラスは全取りにすること98型まで対応します。オマケにコストもマザーガラスの方が格段に良い。

 つまり“OLEDが完成するか、さもなくば会社が吹っ飛ぶ”という究極の賭けをしているLGディスプレイにとって、少しでも量産の可能性が高いマザーガラス生産以外に選択肢が無かったわけで、そのため白色+カラーフィルター方式しか選べなかったというのが実情です。当然開発は文字通りの“必死”で、「とにかくやる」「絶対に完成させる」というある種の根性論的な姿勢になります。目標に向かって突き進むその精神と執念の結晶が、今世界中に流通しているOLEDテレビなのです。

――時代を変えたOLEDテレビの舞台裏に、そんな壮絶なドラマがあったとは……

麻倉氏:実用化最大の壁は有機素材によるTFT(薄膜トランジスタ)ができるか否か。低温ポリシリコンはできていますが、応答速度が速すぎて酸化物半導体(つまりIGZO)を使わないとダメです。しかしこのサイズのOLEDにIGZOを使うことは先例がなく、社内から大学の専門家までありとあらゆる反対に遭いました。そこでやったのが、なんと反対派のリーダー格を開発リーダーに抜擢するという大胆な人事戦略。このエモーショナルな人選の機微がブレイクスルーを生み、大型パネルの生産へとつながるのです。しかしあまりにたいへんなので、引き抜かれたリーダーはその当時を「洞窟を歩いている感じ」と振り返っていました。

――凄いなぁ、焦土作戦の上に敵将のさえも味方につけるとは…… 

麻倉氏:本当に「あらゆる可能性にあたる」という様相を呈しています。そうこうしているうちにソニーとパナソニックは大型化を諦め、サムスンは4K化でギブアップ。その結果今のOLEDパネル完全独占があるのです。

リファレンスソフト「QT-1000」の一幕を、液晶テレビ(写真=上)、OLEDテレビ(写真=下)に映した様子。液晶テレビは黒が白っぽくなる、いわゆる「黒が浮いている」という状態が分りやすく見られる

麻倉氏:OLEDパネルを使い、まずは身内のLGエレクトロニクスが2013年にOLEDテレビを発売しました。その次にLGディスプレイが注力したのが日本メーカーです。昨年にまず東芝がスカイワースへ生産委託し、その年のIFAでソニーとパナソニックが日本でも展開されるモデルを発表しました。この4社が現在の日本市場でOLEDテレビを出しています。私がイベントをやっているビックカメラの有楽町店にはこの4社が一覧比較できるコーナーがあるのですが、面白いことにメーカーで画がぜんぜん違います。会社の絵作りに対する考えがハッキリ出ていますね。

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