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ソニーの有機ELテレビ「KJ-65A1」と比べて分かった“液晶の限界”(2/2 ページ)

» 2017年08月25日 16時22分 公開
[山本浩司ITmedia]
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 本機には「スタンダード」「シネマプロ」など12種類の画質モードが用意されている。まず本機内蔵チューナーによる地デジ/BSの放送波の画質を「スタンダード」モードでチェックしてみたが、チューナー性能、4Kアップコンバート能力ともに高いのだろう、非常に明快で色数の多い鮮明な映像が得られた。地デジのノイズの粒子も細かく、見通しがとてもよい。まずは高級テレビとして十分な実力を持った製品と断言できる。

 投入された画質エンジンは、Z9Dにも採用された「X1 Extreme」で、様々な画質ファクターを有機ELパネルにアジャストさせ、見事な画質を引き出している。もっとも東芝65X910と比較すると、映像のキレやディティールの彫りの深さでは後塵を拝する。ことオンエア画質に関しては、東芝独自の熟成型超解像処理や「美肌リアライザー」の効果が一歩上を行く印象だ。

 また、試みにパナソニックのハイエンドBDレコーダー「DMR-UBZ1」の内蔵チューナーの映像(4KアップコンバートしてHDMI入力)と比較してみた。ほぼ拮抗する画質だが、精査すると細部の色切れはDMR-UBZ1のHDMI 4K入力に軍配が上がる。やはり「マルチタップ・クロマアップサンプリング」による4Kアップコンは強力だ。

 照明を完全に落とした状態で、本機の画質モードでもっともナチュラルな画調に思える「シネマプロ」で映画UHD BDの画質を検証してみた(再生機はパナソニックDMP-UB900)。まずは、ぼくの肌色リファレンスである「鑑定士と顔のない依頼人」を観たが、暗闇からオープニング映像がふっと浮き上がってくるその瞬間にゾクっときた。この漆黒の表現こそ、最新有機ELテレビのかけがえのない魅力。液晶テレビではとてもこうはいかない。

 DMP-UB900の出力解像度を1080p に設定し、本機で4Kアップコンした画質をチェックしたわけだが、本作はノイズが極小なので補正回路をすべてオフにして見た。主演女優シルヴィア・ホークスの肌のテクスチャーをきめ細かく描き、まるで3D映像のような立体感。「シネマプロ」のホワイトバランス、スキントーンもまったく不満を抱かせない。

 室内シーンの暗部階調の表現も秀逸。現行の有機ELパネルは、黒の光り出し(最暗部に近いグレー)部分でやや怪しい挙動を見せる性質があり、そのまま使ったのでは黒ツブレや黒浮きが気になってしまうのだが、本機にはそのようなクセっぽさが感じられない。入出力トーンカーブが時間をかけて追い込まれている証左だろう。

 古いフィルム撮り作品の表現力はどうか。溝口健二監督の名作「雨月物語」(1953年)をマーティン・スコセッシ率いるフィルムファウンデーションが4Kデジタル修復したBDをチェックしてみたが、フィルムの銀粒子によって形成されるモノクロームの滑らかなグラデーションを本機は見事に表現した。

溝口健二監督による名作を4Kデジタル修復した「雨月物語 4Kデジタル復元版Blu-ray」。価格は4800円(税別)。販売元は角川書店

 ノイズレスと言いたい「鑑定士と顔のない依頼人」を観た後では、フィルム作品特有のグレインノイズが気になるので、画質調整項目の「詳細設定」内のシャープネスをデフォルトの50から15に落とし、「ランダムノイズリダクション」と「デジタルノイズリダクション」をそれぞれ「切」から「オート」に変更した。この調整によって画面上のザラつきが減り、あの有名な舟を漕いで湖面をゆくシーンの深い映画的官能を味わった。

 では、UHD BDの印象を記そう。最初に観たのは、ユーロアーツが撮った4K収録ながらSDRコンテンツという珍しいオペラ作品「フィガロの結婚」。画質モードを切り替えてみてピタリとハマったのが「フォトスタンダード」。このモードを選んで「色の濃さ」と「シャープネス」を下げ、「精細度」を持ち上げる調整で、目に鮮やかな舞台が眼前に出現した。

伯爵夫人を歌ったソプラノ、アネット・フリッチュの大人の色香を実感させる美しさに陶然。身につけた宝石の煌めき、胸元の肌の艶かしさ。こんなすばらしい画質でオペラが観られる日が来るとは……。

 UHD BDで最も高画質な映画ソフト「レヴェナント:蘇えりし者」は「シネマプロ」のデフォルトで。1カット1カットすべてを額装したくなる美しい映像を間然するところのない見事な画質で楽しませてくれた。とくに凄いのが、夜闇の中で焚き火をする男たちの会話シーン。漆黒は磐石の安定感で、焚き火の階調が精妙に描かれるのである。HDR の魅力はハイライトの階調描写と色数の多さにあることを改めて実感した。

 UHD BDの階調表現の秀逸さと色数の多さは、東芝の65X910やパナソニック「TH-65EZ1000/EZ950」を上回る印象だが、これは8bitのSDR映像、10bitのHDR10映像の入力信号に対して14bit相当の補間処理を施すソニー独自の「Super Bit Mapping 4K HDR」が的確にはたらいているからこそだろう。ソニーはスーパービットマッピング技術を長年磨いてきたが、その成果が本機で大きく花開いたように思う。

 「ハドソン川の奇跡」はHDRのショーケースのような作品だが、ニューヨークの夜の賑わいを描いたシーンは、少々やりすぎと思えるくらいビルの照明やバー内のボトルが光り輝く。「これが映画?」と筆者はやや違和感を抱いたので、映像調整機能の「Xtended Daynamic Range」をデフォルトの「強」から「中」「弱」に設定し直した。

思い込みを払拭する見事な音

 さて、アコースティック・サーフェスを採用した本機の音質について最後に触れておこう。この手法の詳細を聞いた時点では、映像と音像の一致を実現させる手法としては興味深いが、アクチュエーターで前面ガラスのパネルを振動させていい音を得るのはとても無理……というのがぼくの予想だった。しかし、本機はそんな思い込みを払拭する見事な音を聴かせた。

アコースティック・サーフェスは有機ELパネルを背面からアクチュエーターで振動させ、音を出す

 背面ウーファーとのつながりがよく、真っ当なバランスで人の声を描写し、しかも十分な音圧が得られるのである。当然ながら音像が映像にピタリと寄り添い、その意味でも「テレビの音」としてこれほど納得させてくれる製品は他にない。音質担当者のセンスのよさに脱帽だ。

 ガラス管を振動させて音を360度方向に放射する「サウンティーナ」というスピーカーをソニーは2008年に発表しているが、そのときの開発ノウハウなどがA1のサウンドシステムに反映されているのかもしれない。

 まあいずれにしても、本機を当代最高画質のUHD BDを見るのに最もふさわしい高級テレビとして位置付けられるのは間違いなく、マスターモニターの輝かしい伝統を持つソニーならではの傑出した製品と断言したい。

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