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» 2017年12月31日 15時05分 公開

さあ、人間の仕事を味わおう――「麻倉怜士のデジタルトップテン」(後編) (4/4)

[天野透,ITmedia]
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1位:有機EL

――さて、今年の締めくくりです。2017年、麻倉怜士先生が最も注目した話題は何でしょう?

麻倉氏:では発表しましょう、2017年のデジタルトップテン第1位は有機ELです。

 “有機EL普及元年”というわけで、民生用テレビではLGエレクトロニクスが孤軍奮闘していた2016年とうって変わって、今年は東芝、ソニー、パナソニックが参入しました。実際にその絵を見たら「液晶の時代は終わった」という感想を誰もが持つことでしょう。

 液晶テレビの開発は各社がかなり頑張ってきましたが、結局は黒浮き、画角、動画ボケの“液晶三悪”からは逃れられません。すべてをカンペキに乗り越えた液晶は残念ながら存在しませんでした。「4K OlempAc」で言ったことなのですが、これまでの液晶の評価基準は“悪所がどれだけ改善されたか”という、マイナスベースで情けないというか程度が低いというか、そんな悲しくなる評価軸でした。「マイナス50の評価を頑張ってマイナス30くらいにしました!」と言われても、これは一体全体、画質評価の話なのか、それとも単なる技術の話なのかというのが分からなかったのです。

2017年はパナソニック、ソニー、東芝といった国内老舗テレビメーカーがLGに続いて有機ELテレビを日本市場に投入。大型テレビ向けのパネルメーカーは現在のところLGディスプレイのみなので、同じデバイスでありながら絵作りの違いで顕著に差が出るという、テレビ史上でも極めて稀有な状況。画像はLGの「W7D」シリーズ

麻倉氏:それが有機ELになってゼロになってきた。オーディオ、スピーカーの音作りは「こういう音があります、ではどんな音楽的思想に基づいてこれを再現しますか?」という、音楽解釈が必要です。そういう次元に、ようやくテレビがなってきました。元の絵を出すだけでなく「ここはきっとこういう解釈をしたら良い」というものを上手く表現し、ディレクターズインテンションも上手く出す。そういうところがやっと出てきました。

――プロジェクターは常にそういう目線で評価がされてきましたが、液晶テレビは「ピーク輝度が」とか「ネイティブコントラスト比が」とかいう話が多かったですよね。カタログの数字を並べるだけの” なんちゃって評論”から、ようやく抜け出せるのかという思いです

ヨーロッパではPhilipsやLOEWEなどのブランドからも有機ELテレビが発売されている。液晶が幅を利かせていた“画質氷河時代”を乗り越えて、今後は見た目も内容もどんどんレベルが上昇していくと願いたい

麻倉氏:実際に4社を比べてみると、LGは従来機で問題があった基本性能が上がってきました。階調感もそれなりに良くなっています。ソニーは非常に鮮烈に打ち出す、送り出す、押し出すパワーを、有機ELの黒の力をテコにして付けてきました。パナソニックはソニーとは全く違う、バランスを大事にしています。見た目の優しさ、気持ちよさ、清々しさを打ち出すのが特徴的です。東芝は逆にこってりとした、アーティスティックな色使い、階調使いを出してきています。

 このように各社の特徴が出てきた、しかも同じLGディスプレイのパネルを使いながら、それだけ違う絵を出したきた、それがOLEDの勝負です。これはまさに“絵作り”の競争。ディスプレイ技術の競争ではなくなり、絵をどう作るか、どう見せるかというところの、積極的な絵作りの世界に入ってきました。これこそ有機ELを1位に推した理由です。

 ブラウン管、プラズマの時代はまさにこれ、どのような表現に持っていくかというところに、非常に力が入っていました。特にプラズマ末期はそうです。それが液晶化によって、原始時代まで一挙に“文明退化”。表示以前の荒涼たる世界に戻ってしまいました。原始時代どころか、画質氷河時代とも言うべき惨憺(さんたん)たる状況です。プラズマがパックス・ロマーナを謳歌していたとすると、その後の液晶はネアンデルタール人が闊歩(かっぽ)していたようなもの(笑)。それをいかに改善するか、急々に“絵を作る”という本来の目的までは全く達せず、とにかく「何とか黒を沈めました、許してください!」みたいなところになっていた。それが液晶の評価でした(笑)

 ウチは今しょうがないから液晶を1台くらい入れていますが、これまで「液晶は入れません!」が我が家の家訓でした。映像デバイスは自発光があるべき姿です。だって考えてみてくださいな、ディレクターズインテンションを考える時に、暗くしようとしても光が出続ける液晶はあり得ない。ディレクターが「暗い」といった場所はちゃんと暗く制御しないと、当然ダメでしょう?

 そんなプリミティブな状態が続いていたところ、ようやく文明開化の時代になってきました。そういう意味ではこれから長く有機ELの時代が続くでしょう。有機ELという表現力が手に入ったところで、その素材をどう使いこなすか。これからの視点はそういうところに注がれます。

――いつぞやにも言いましたが、素材の良さは要するに「使える絵の具が増えた」ということ。でも画材と作品の善し悪しは別問題です。フェルメールの「真珠の耳飾り」は「ラピスラズリの青絵の具を使っているから名画」なのかと言うと、それはちょっと違う。HBの鉛筆1本でも傑作は描けます。しかし使える色が増えるとそれだけ表現の幅は広がる。絵の具の数は可能性の数です。活かすも殺すも使う人次第。「何でもできる時代に、あなたは何をどうやって表現しますか?」そういうことがこれから問われていくのでしょう

麻倉氏:別の例を挙げてみましょう。この前取り上げたダイヤトーンのスピーカーの場合、カーボンナノチューブというハイスピードで内部損失が高く、表現力が豊かなユニットができました。でもそれをどう使いこなすかは、また別問題なわけです。三菱の設計陣は使いこなしに3年間苦労して、エンクロージャーのカタチを変えたり、磁気回路を変えたりしています。

 そういう意味で、今はある水準の部材ができました。次はそれをセットメーカーの職人が、絵作りにどう活躍するかが見どころです。いよいよ私が思い描いていた、職人が活躍する時代の到来です。絵作り、表現という、人間の仕事が勝負の次元になってきたということで、今年最も注目すべき話題に有機ELを推します。


 13年の長きに渡り連載を続けてきたITmedia LifeStyleの「デジタル閻魔帳」は今回で終了です。長い間、読み続けていただき、大変ありがとうございます。この十数年は、まさにデジタルの激動でした。HD-DVDとBDの戦争、地デジの本格化、3D、4K、そして8K……と、次の時代に続く、画期的な提案、技術が多数開発され、実用化、市場化されてきました。が、感慨に浸っている間はありません。来年以降も麻倉怜士は走り続けます!

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