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審査委員長直伝! 第9回「ブルーレイ大賞」レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/6 ページ)

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 「DEG ジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」受賞作を審査委員長の麻倉怜士氏が自ら解説。後編では、注目の高画質賞、審査員特別賞、そしてグランプリのレビューをお送りする。UHD BDの発売やシェア50%突破など、Blu-ray Disc(以下、BD)にとって区切りの年となった2016年は、各部門で評価の新機軸が打ち立てられたようだ。そしてグランプリは日本映画とも少なからぬ縁を持つあの名作シリーズ。これを読めばBlu-ray Disc(以下、BD)の今がまるっと分かる!


グランプリタイトルを発表する審査委員長の麻倉氏

ブルーレイはレンタルよりも購入というコレクター派の栗山千明さん。エヴァンゲリオンのブルーレイボックスを観た時は、画質や音質が良くなることでお気に入りの作品に新たな発見をしたことを驚いたという

ベスト高画質賞 アニメ部門(洋)「リトルプリンス」


「リトルプリンス 星の王子さまと私」

麻倉氏:後編は高画質賞と審査員特別賞、そして2016年のグランプリです。まずは高画質賞のアニメ洋画部門から見ていきましょう。

 アニメ洋画部門は、サン・テグジュペリの名作小説「星の王子さま」を題材にしたファンタジー「リトルプリンス 星の王子さまと私」です。この作品の映像は実写とCGの組み合わせで、現実世界はCG、絵本の世界は人形を使ったストップモーションと、表現を使い分けているのが大きな特徴です。これによりCGの世界は質感がツルツルで円滑なのに対して、人形の映像になると素材の実写感が出て、物語の中で絵本の世界と現実の世界が対比して明確に描き分けられています。

――ハリウッドアニメ的な3Dモデリングと王子様のストップモーションは一見すると反りが合わないように感じますが、これが映像的に違和感なく接合されている様が素晴らしいです

麻倉氏: CGのディテールが素晴らしく、テクニックのすごさが伝わってきますが、それもそのはず、本作はディズニー、ピクサー、ドリームワークスという、スタジオの枠を超えた3Dアニメのオールスターチームが、なんと8年もの歳月を費やして制作した力作です。紙と粘土で作られた王子と飛行士の、特有の質感を見事に映し出し、動きも滑らかで繊細。ストップモーションの部分はマクロレンズを駆使して被写体に近接してコマ撮りした撮影の努力が見事に結実しています。立体的に複数の世界観が並立しており、単なるアニメを超えた複数の世界観が同一のストーリー上で並立しているという点でも、とても素晴らしい作品だと感じました。

――ハリウッドが得意とするフル3Dアニメーションは徹底的に実写へ近づけることを得意としていますが、これは芸術表現としての表現の差異化を削ぎ落とす諸刃の剣でもあります。日本のアニメスタジオは線画が主体ですから、例えば世界的に有名なスタジオジブリと「まどか☆マギカ」などを制作したシャフトとでは明らかに画調が異なり、それがスタジオの色にもなっています。ですが欧米の3Dアニメスタジオの場合は、一見しただけでその差異を指摘するのは極めて困難です。リトルプリンスで用いられたストップモーションという手法は、こういった問題に対する回答の1つなのかもしれないと感じました

麻倉氏:アワード受賞は逃してしまいましたが「I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE」も特徴的表現という点で語れるでしょう。特徴は往年のセルアニメの様なフレームの動きと、柔らかで繊細な色彩設計と繊細な立体感で、3D賞でも入選した本作は3Dで見ても大変素晴らしいです。

――スヌーピーはハリウッド的な3Dモデリングをベースとしながらも、ディズニー的なクリクリ目キャラクターの大げさアクションとはまた異なるキャラクター造形にかなり好感を持ちました。先生が指摘したセルアニメ的な調子が、僕が普段見慣れている日本の線画を主体とした2Dアニメに近いというのが大きな要因かなと思います。3Dアニメに対してはキャラクターデザインという基本的な面で、より多彩なバリエーションが出てくることを期待したいです。


ベスト高画質洋画アニメ部門の入選作品。欧米のアニメはフルCGが主流だが、アワード受賞作の「リトルプリンス」はクレイアニメを組み合わせることで、ナマの素材感を演出し、物語表現の幅を広げた
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