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オーディオビジュアルが追い求め続ける芸術表現の哲学――「麻倉怜士のデジタルトップテン」(前編)(1/5 ページ)

2017年もあとわずか。毎年恒例「麻倉怜士のデジタルトップテン」の季節だ。前編となる10位から7位までには、現代の芸術の一翼を担う製品や項目が並んだ。

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 2017年も後わずか。毎年恒例「麻倉怜士のデジタルトップテン」の季節だ。前編となる10位から7位までには、現代の芸術の一翼を担う製品や項目が並んだ。それらはいずれも「芸術をいかに表現するか」を追い求めたもの。オーディオビジュアルは100年以上の歴史を重ね、いよいよ哲学を語るに足りる領域へと足を踏み入れた。長年に渡って音と映像を見つめてきた麻倉怜士氏は、今年もそんな技術の挑戦者たちを鋭く評価する。今年は一体、何がどれだけ進歩しただろうか?

――今年もいよいよ年の瀬ですね。毎年ながら今年も色々とありました

麻倉氏:そんな“色々”を私の観点でまとめ上げ、インパクト度でカウントダウンをする「デジタルトップテン」の季節ですね。今年も悲喜こもごも、さまざまなニュースが関連業界を飛び交いました。

――どんな製品・ニュースがあったのか。早速、振り返ってみましょう。前編は10位から7位までです

番外編 USBコンディショナー「SH-UPX01」

麻倉氏:まずは番外編から。今年はパナソニックが発売したUSBコンディショナー「SH-UPX01」を推したいと思います。


あのパナソニックが作ったUSBコンディショナー「SH-UPX01」。元々BDレコーダーのオマケだったものが評判を呼んで、ついに製品化した。「なぜパナソニックがこんなジャンルを?」という疑問も、開発が旧テクニクス部隊だという事を聞けば納得。ちなみに上のものは旭化成繊維の電磁波吸収シート「パルシャットシート」を付けた、麻倉氏の特別仕様

――先日のオーディオ特集)で取り上げたばかりの製品ですね。結構な数の製品を取り上げていましたが、その中でこれを推す理由は何でしょう?

麻倉氏:製品の詳細については「前号を見てね」というところです。ここで推す理由としては、性能はもちろん、天下の世界企業“大パナソニック”がこれをやったことが、実に面白いなと感じました。しかもオーディオブランドのテクニクスではなく、Blu-ray Discレコーダーの部隊による開発です。これはなかなか味わい深いなと。

 使った機器の電源事情を革命的に向上させ、S/Nが劇的に改善するというのは、以前に取り上げた通りです。音質にもスゴく効き目があり、試してはいないですが、画質にも効くのだとか。空きポートに全部差し込めばさらに効くという話も耳にしますね。

――「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉があるように、あんまりやり過ぎてもどうなんだろうという気もしますが(苦笑)

麻倉氏:元々はアングラちっくなところから出発し、あまりに市場評価が高まって正式商品に。この辺も以前に書いた通りです。主流の製品ジャンルでないだけにいろんなエピソードがあります。

 「パナソニックでオーディオといえばテクニクスだろう」という感じが最近はまた高まっていますが、現在のテクニクス部隊というのは、実はBlu-ray Discなどの映像メディア部隊が母体になっているんです。20世紀の後半に全盛期を迎えたテクニクスですが、その後のオーディオ衰退でブランドは一時撤退していました。ここで重要なのは、彼ら(以前のテクニクス部隊)をリストラせずBlu-ray Discの部隊に移したこと。オーディオの技術、人員、ノウハウはここに残っていたわけです。

 正確にはDVDレコーダーの時代から(旧テクニクスの人達は)います。ですがBD以前は「絵は素晴らしいのに音は何よ」というような、スカスカで貧弱なものでした。するとこの部隊、そういう指摘に対して真摯(しんし)に対応し、キッチリと修正してきたんです。

 2000年前後、パナソニックのレコーダーがあまりに音が悪いので、記事で指摘した事があります。そしたらレコーダー事業の技術部長が私のところにとんできました。「どこが悪いんですか?」「ここだよ(実演)」「ホント悪いですね……」といったやり取りなんかもありまして(笑)。その時に旧テクニクスメンバーが中心となり、当初は酷かったHDMIの音質改善やジッターの排除など、コツコツと品質改善にあたったわけです。

 この中で面白かった機能が「真空管サウンド」というもの。「300B」や「845」「EL34」「KT88」など、球によって異なる音の特徴をシミュレートして、テイストを変えるという、BDレコーダーにしては随分マニアックな仕組みです。何を隠そう、この機能を作った技術者が今回のコンディショナーを手がけているんです。要するに根っからのオーディオ畑の人ですね。


麻倉氏所有の、歴代USBコンディショナー。左が旧世代で右が新製品

――実は先日秋葉原で開催された「ポタフェス」で、パナソニックがこれを持ち込んでいたんです。「アダプターを使えばポータブルプレイヤーでも効果が出る」と言われたので会場で実際に試してみたら、これがまあ面白いくらいにS/Nが向上しました。背景のざわつきがグッと減って静かになり、あまりの変わりように思わず笑ってしまったほどです。話を聞くと、技術としてはJAXAの開発現場で使われるノイズ除去のものを持ってきているとか何とか。元がオーディオではなくガリガリの機械、物理の技術で、ということは、オーディオ以外でもおそらく結構な効果が期待できるのではないか、そんな風に僕は感じます。


実はこんな使い方でも効果がある。個人的に試したところだと、コストパフォーマンスはあまりよろしくはないが、カメラコネクター経由のiPhoneでも効果アリ。AACなどの圧縮音源でもしっかりと差が出たのには驚いた

麻倉氏:オーディオの技術はオーディオだけにしか役に立たない、なんてことは絶対にあり得ません。その逆も真なりというところですね。この製品には、総合家電メーカーにおけるオーディオの盛衰を見ることができます。一時の勢いを失ってからもオーディオというジャンルの重要性を認識していて、BDレコーダーで生きていた。そのうちの一部は新生テクニクスへ行きましたが、あちらへ行かなかった人達がこういった面白いものを開発した。そんなストーリーです。

 会社として、積み上げた技術の資産をいかにキープするか。「必ずいつか役立つ」そういう信念がカタチとなって花開きました。モノ自体の良さもさることながら、その出自が大変に興味深い。これが番外編入りの理由です。

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