3本より1本の方がつながる? デジタル携帯電話のアンテナ強度の不思議

“電波強度が3本なのにつながらない”そういった経験はないだろうか? 通常のセルラー方式の携帯電話では,ユーザー数が増えるにつれ,そういった現象が避けられなくなってくる。

【国内記事】 2001年3月28日更新

 ケータイにはほぼすべての端末に電波強度表示がある。0〜3本程度のバーで表示され,本数が多いほうが基地局から受信している電波が強い。通話可能かどうかの目安だ。しかし都心などでは電波強度表示が3本でも通話が途切れたり,発信できなかったりすることが頻繁に発生する。この不思議な現象はなぜ発生するのだろうか。

携帯電話の無線方式の基本,セルラー方式

 不思議な現象を解明する前に,携帯電話で採用されているセルラー方式という概念を理解する必要がある。現在主流のPDC(デジタル携帯電話)はもちろん,既にサービスが終了したアナログ携帯電話の2方式(NTT大容量方式,TACS)でも,セルラー方式が採用されていた。

 セルラー方式とは広い地域をカバーするために,1つの基地局がカバーするエリアをセル(細胞)で区切ることからそう呼ばれる。ボードゲームの正六角形のセルで埋められたマップを想像してもらえば分かりやすいだろうか。実際には隣接した基地局は少しずつ重複したエリアにも電波が届くようにしている。こうすることで携帯電話が移動しても基地局を切り替えながら途切れることなく通話ができるわけだ。

 携帯電話はポケットベルなどと異なり双方向で通信を行う。通常携帯電話は同時に1つの基地局としか通信できないので,異なる基地局から同じ周波数で電波が届くと都合が悪い。そこでセルラー方式では隣接する基地局で必ず異なる周波数を使用するようにしている。これは隣接していない基地局同士では同じ周波数を使えるという意味でもある。このおかげで広大な地域でも少ない周波数帯で効率良くカバーできるわけだ。

結果的にセルラー方式の原則を守れなくなった都心部

 携帯電話の利用者が現在ほど多くなかった時期は,基地局は十分余裕をもった距離間隔で配置されていた。この頃はセルラー方式の原則通り,携帯電話に基地局から届く電波は1つか2つだったわけだ。携帯電話はより強い電波を選択して使用する。これならば問題は発生しない。

 しかし都心部などを中心に携帯電話の利用者が増え始めると,1つの基地局がカバーする範囲内での通話量が飽和するようになった。

 携帯電話で各キャリアが利用できる周波数帯は限られているから,おのずと1つの基地局で可能な通話量が限定されている。そこで取られた方法は,1つの基地局がカバーするエリア(セル)を小さくし,その代わりに基地局を増やすことだった。もちろん隣接した基地局では異なる周波数を利用する原則は変わらない。

 このようにして基地局間の距離は縮まった。もともと都心部などではビルなどの障害物を想定して,一定エリア内に電波が届くように基地局の電波出力を設定している。これは障害物がなければ予想外の位置まで電波が到達するという意味でもある。またビルなどの障害物は電波を遮断するだけではなく反射もする。つまり本来届くべきではないところにまで電波が到達する可能性は大いにある。

 基地局間の距離が近づくことで,この影響も大きくなった。本来ならば最大でも2つ程度の基地局からしか電波が届かないはずの携帯電話に,いくつもの基地局からの電波が届くようになってしまったのだ。

 携帯電話の電波強度表示は受信しているもっとも強い電波を基準にしている。つまり通常は一番近い基地局からの電波だ。

 ところが実際に通話に使用するのは一番近い基地局とは限らない。いくつもの基地局から電波が届いてしまうので,実はあまり電波が強く届かない基地局を使ってしまう場合もある。つまり電波強度表示はアテにならないのだ。

 例えば電波強度表示が3本の所で着信し,応答した瞬間に通話が終了することがある。これも電波強度表示の対象になっている基地局と,実際の通話のために電波を送受信する基地局が異なるために起きる現象だ。

あまり電波が届かないほうが安定する?

 都心部でもっとも困るのは見通しのよい位置での通話だ。普通に考えると基地局との間の障害物がなく,良好に電波が送受信できるように思える。

 ところが実際は違う。見通しのよいところでは数多くの基地局からの電波を受信してしまい,場合によっては同じ周波数を使った異なる基地局からの電波を同時に受信してしまう場合すらある。これは完全に混信だ。

 この現象は東京芝浦のレインボーブリッジが有名で,あまりにも見通しがよいために基地局が密なNTTドコモでは10以上の基地局からの電波を受信するといわれているくらいだ。当然,通話が突然途切れたり,電波強度表示が3本でも発信できなかったりする。都心部のビルでは窓際よりも建物の奥まった位置のほうが,電波強度表示が弱くても通話がきちんとできることもある。到達する電波は弱くても,電波の届く基地局が少ないほうが都合がいいのだ。

 こういった現象が顕著なのはNTTドコモ。ユーザー数が多く,その分基地局も密に設置しているからだ。もちろん基地局のアンテナの向きを変えたり,指向性を強めるなどの方法で対策を行っているが,根本的な改善にはなかなか至らないようだ。

cdmaOneやFOMAでは,こういった問題はない

 なおauのcdmaOneや,今年5月にサービスが開始されるドコモのFOMA(W-CDMA)では今回取り上げたような問題は起きない。もともと複数の基地局と電波を送受信し,これらを合成することでむしろ安定した通話が可能になるシステムだからだ。

 通話用に電波を1つしか受信できないPDCでは,基地局側で改善を進めるしかない。au以外の携帯キャリアでは,PDC方式のユーザーは増加する一方で,基地局数を減らして電波の干渉を押さえるのは現実的には難しいからだ。都心部においてはこれから先も,デジタル携帯電話の電波強度表示はあまり鵜呑みにしないほうが正解だ。

[坪山博貴,ITmedia]

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