第5回 全てのモバイルガジェットに暗号機能を導入せよ!

情報盗難の可能性があるモバイルガジェットだからこそ,暗号化は急務だ。その技術基盤は着々と整えられてきている。

【国内記事】 2001年3月29日 更新

 前回の記事では(2001年3月15日の記事参照),モバイルガジェットに納められた情報の盗難の危険性を解説した。個人が待つモバイル機器だけでなく,企業ではノートPCやPDAなどの普及で,機密情報を入れて持ち歩くことも多くなってきている。それを受けて,セキュリティ対策として暗号化技術の導入が必要とされている。

既にモバイル向け暗号技術の導入は進んでいる

 モバイルガジェットに納められた情報を保護する暗号化技術は,企業向けの導入事例が先行する形で導入が着々と進んでいる。ケータイやPDAにも,暗号技術の汎用チップや標準仕様として搭載され始めている。

 例えばPDAの分野では,カシオはモバイル機器からデータベースを利用する企業向けソリューション製品「フロントデータベース」を提供すると発表している。そのデータベース保護策として独自開発の非線形暗号化技術「MDSR(Multi Dimensional Space Rotation)」を搭載した。

 このMDSRは,2000年12月に発売された企業向けポケットPC対応端末「カシオペアE-707」(DoPaモジュール搭載)に搭載が可能とのこと。実用レベルといっても過言ではない“毎秒1Mバイトという処理速度で情報を暗号化/複合化することが可能になっている。

 ケータイの分野では,暗号大手の米RSA Securityは,無線端末向け暗号化/複合化技術「MultiPrime」の独占ライセンスを米Compaqから受け,WAP対応のセキュリティソリューションへの導入を予定している。

 また,三菱電機は,同社が開発した暗号アルゴリズム「MISTY」を携帯機器向けに軽量化した「KASUMI」のライセンス供与を開始している。

 この暗号はワイヤレス環境での利用などに開発されたもので,2000年3月に国際標準化団体3GPP(3rd generation partnership project)に採用されており,次世代通信仕様であるW-CDMA(FOMAなどで採用)の標準暗号として採用されている。

 このKASUMIは,現在,携帯電話で利用されているSSLの次世代版という位置づけになる。

ケータイでは演算処理が問題に

 「KASUMI」や「MultiPrime」は,ケータイなど搭載できるメモリ容量に制約があるモバイルガジェットに向けて開発された暗号技術で,データの暗号化および認証データの作成を実現できる。これによりインターネットコマースなどへのアクセスだけでなく,電子財布としての可能性がひらかれる可能性がある。

 ところがケータイでの暗号技術には問題がある。搭載されているCPUの演算処理能力に限りがあり,暗号化/複合化処理に時間がかかることが多いのだ。

 暗号は,その安全性がより高度になればなるほど,演算処理に時間がかかる。いくら情報が高度に守られるとしても,暗号処理に何分もかかってしまっては使いものにならない。

 そこで暗号化/複合化だけを別チップで処理することができれば,端末の性能が不十分でも実用化の可能性は十分高くなると期待されている。

 例えば富士通は1999年11月に,RSAよりも高度で次世代暗号技術として注目を浴びている楕円曲線暗号の暗号化/複合化をワンチップ化している。2048ビット暗号鍵を使ったRSA暗号と同程度の安定性を,211ビットの楕円曲線暗号で実現できるという。

 このチップは,モバイル端末やデジタル家電だけでなく,スマートカードなどにも搭載される予定だ。

暗号は100%ではない

 しかし暗号が全ての情報を100%守ってくれるわけではないことを忘れてはならない。

 暗号はあくまで数学上の技術であり,暗号化した情報は,必ず複合化(元に戻すこと)ができる。一般的に,高度な暗号は複合化が困難とされているが,それがいつ破られるか,誰も予測ができない。

 1998年末のことだが,アイルランドの十代の少女が,高度な暗号技術として定評のある「RSA」を越える新しいデータ暗号化技術を発案し,世界中の注目を浴びた。

 「Cayley-Purser algorithm」と名付けられたこの暗号アルゴリズムは,アイルランドにあるBaltimore Technologiesの実務体験プログラムに少女が参加したとき浮かんだという。「Cayley-Purser」という名は,19世紀に実在した数学・天文学の専門家Arthur Cayley氏と,Baltimoreの創設者Purser Michael氏の名から取ったもの。

 普及率の高いRSAは,厳しいテストを経てきた暗号アルゴリズムだが,少女はそれに匹敵する安全性を提供する可能性を持ちながら,処理速度はRSAの22倍高速という技術を生み出した。その後,この暗号アルゴリズムは,栄誉ある技術コンテスト「Young Scientists」で一等賞を勝ち取っている。

 忘れてはならないのは,最高の技術を開発するために多額の資金を投入しても,このような少女一人が,たった一晩で世界の常識を変えてしまう可能性があるということだ。

 この少女は暗号を解読したわけではないが,同じように絶対安全と思われていた暗号が,いつ破られるとも限らない。

 情報を守るためには,ある程度の覚悟と,暗号に対する認識を深める必要があるようだ。

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[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

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