AirH"128Kパケットの疑問を解く（前編）

3月26日の本サービス開始を控え，試験サービスも順調なAirH"128Kパケット通信。しかし状況に大きく左右されるスループットを中心にまだまだ疑問が尽きないのも事実。そこで本サービスを前にDDIポケットに疑問に答えてもらった。

【国内記事】

2002年3月19日更新

　試験サービスが既にスタートし，今月26日には本サービスも始まる，AirH"の128Kサービス（1月17日の記事参照）。しかし「4つの電波を束ねる」という技術には，スループットやハンドオーバーなどの面で疑問点も多かった（2月26日の記事参照）。

　「どのように4つの電波を束ねているのか」「ハンドオーバーはどんな仕組みになっているのか」「1基地局当たり2波を使えるメリットは」「128Kbps以上のサービスの可能性は」──。AirH"の技術面と今後の展望について，DDIポケットの近義起技術企画部長に話を聞いた。

128KパケットはマルチリンクPPPで実装──しかし無線ゆえの問題も

　まずはスピードの問題だ。AirH"は128Kbpsを謳っているが，実際には100Kbps以下しかスピードが出ないことも多い。

　AirH"128Kパケットは32Kパケットを1台の端末で複数利用し，最大128Kbpsの受信速度を実現している。オーバーヘッドなどを考慮すると，32Kパケットは25K〜28Kbps程度の速度だから，理屈の上では端末が4つの安定した空きチャンネルを利用できれば100〜110Kbps程度の受信速度を得られるはずだ。

　しかし実際には基地局密度が高い，つまり4つの安定した空きチャンネルを利用できそうな場所でも，常に100〜110Kbpsといった受信速度を得られるわけではない。もちろんバックボーンとなるDDIポケットのIP網や利用しているISPの混雑という問題も無視できないが，無線部分の影響も大きいのではないだろうか。

DDIポケット：AirH"128Kパケットは標準的なマルチリンクPPPで実装しています。もちろんマルチリンクPPPの処理は端末とDDIポケット内のサーバが処理するので，ユーザーからは見えません。ISDN回線でのTAやダイヤルアップルータでのマルチリンクと同じです。まずマルチリンクそのものではロスはほとんどありません。例えば32Kbpsを2本束ねてもマルチリンクPPPだから通信速度は最高でも1.5倍にしかならない，ということはありません。

　マルチリンクPPPでは各リンクの速度は均一ですから，一番遅いリンクの通信速度×n倍（n=リンク数）程度しか通信速度が出ません。つまり，最も遅い速度に引っ張られるのです。

　これはISDNやデジタル専用線ではほとんど問題になりません。トラブルでもない限り各リンクの通信速度が安定して均一だからです。ところがAirH"は無線で，各リンクは異なる基地局と通信しますから，各リンクの通信速度は異なって当たり前です。電波状態の悪い，通信速度の遅いリンク（＝チャンネル）も束ねてしまうと，全体の通信速度が低下するのです。

　もちろん全体の通信速度が低下しないように工夫はしています。各チャンネルの通信速度を常に監視し，しきい値以下の通信速度のチャンネルは使わないようにしています。つまり利用できるからといって4つすべての電波使うというわけではないので，通信速度の遅いチャンネルに必ず足を引っ張られるということではありません。

　仮に25Kbpsの受信速度が得られるチャンネルが3つ，15Kbpsのチャンネルが1つ利用できるとしよう。4つとも利用すると受信速度は15Kbps×4=60Kbpsになってしまうが，しきい値を20Kbpsと仮定すれば15Kbpsのチャンネルを無視して25Kbps×3=75Kbpsの受信速度が得られる。しきい値の設定も含めてここまで単純な制御ではないと思うが，こういう制御を行うことで複数の電波を利用するデメリットを排除しているわけだ。

DDIポケット：無線を利用することで発生する“遅延のゆらぎ”とTCP/IPの相性が悪いのも問題です。AirH"に限らず無線では遅延がつきものなのですが，実際には無線レベルで少々遅延してもちゃんと届いたデータを，TCP/IPが遅延を理由に届いてない物として再送してしまうんです。

　もちろん単純にTCP/IPが悪いということではなく元々無線通信を前提にしていないのが原因なのですが，無線を束ねれば束ねた分だけ再送が発生する可能性が高くなります。AirH"128Kは，ほかの無線通信手段よりずっと遅延の影響を受けるんです。

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[坪山博貴，ITmedia]

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