携帯カメラで“顔”を認識〜アイマティック携帯内蔵カメラの被写体の多くは人間の“顔”。これを単なる画像データではなく、その人固有の“顔”として認識したり、その表情をデータ化したりする携帯向け技術が開発されている
携帯内蔵のカメラを単なる小型デジカメとしてだけではなく、人間の顔の識別機能などを持ったよりインテリジェントなデバイスに進化させる試みが始まっている。 各種の調査によると、携帯カメラの被写体の多くは、自分や友人の顔(7月31日の記事参照)。ここから単なる画像データではなく、“顔”ならではの情報を取得することで、さまざまな応用が見込まれる。
米国カリフォルニアに本社を置くEyematic Interfacesは、オムロンや米Sun Microsystems、米Texas Instruments(TI)などが出資するベンチャー企業。人間の目のような認識をコンピュータで行うことを目指している。 1995年に米国防総省が行った非接触認証のコンテストで、カメラで撮影した顔を認証する技術を使い優勝。人間の顔をコンピュータに取り込むことで、「キャラクターを使ったコミュニケーションができるのではないか」(同社日本法人のアイマティックジャパン、事業開発部長の宮田拓弥氏)とその応用を進めた。 同社のコア技術は、「(携帯のカメラなどで)撮られた写真から、どこが顔かを認識する」(宮田氏)ものだ。静止画/動画から人間の顔を自動認識し、さらに目や口の端など特徴的な点を自動検出。変化をリアルタイムでトラッキングすることもできる。
この技術の応用範囲は広い。例えば、背景との合成がある。現在、ファインダーに飾りフレームを表示して撮影する機能が流行だが、アイマティックの技術を使えば、撮影済みの画像から顔の部分だけを切り出し、好きな背景と組み合わせられる。「当面はサーバ側のファンクション」(宮田氏)だが、カメラ関連ビジネスの1つとして期待される。 顔画像をユーザー認証に使うこともできる。宮田氏によると認識率は95%程度であり、指紋認証などに比べると精度は落ちるが、手軽なセキュリティ機能としては面白い。 内蔵カメラで撮影した画像の多くは、送信されず端末内に保存されることから、「顔をキーとして画像を検索する」(宮田氏)というアイデアもある。端末内の画像から“彼女の写真だけを表示する”といったことができるようになるわけだ。 面白いところでは、テレビ電話時のマイクの制御を顔映像から行うという案も挙がっているという。端末を口から離して使わざるを得ないテレビ電話では、イヤホンマイクを使うのが現在の主流。しかし、同社の技術を応用すれば、「口の位置に応じてマイクの方向を変えたり、口が動いていない時にはマイクをオフにして雑音をなくす」(宮田氏)ことができるようになる。
最も商用化が近いと思われるのは、アバターを使ったチャットへの応用だ。アバターとはユーザーの姿を表した人型のこと。アイマティックの技術を使うと、ユーザーの表情をデータとして取得できる。この表情データをアバターに当てはめることで、ユーザーの表情に合わせて動くアバターができあがる。
auの松下製端末「C3003P」に内蔵されているBREWアプリケーション「キャラこみゅ」(3月25日の記事参照)には、同社の技術が既に利用されている。3Dキャラクターに笑う、泣く、踊るなどの表情を付けて相手に送信できるものだ。 「単純な顔文字から、ユーザーにカスタマイズの機会を与えて、感情を伝える道具としてアバターを使えるのではないか」と宮田氏。
最終的には、携帯内蔵カメラで顔を撮影し、その表情をリアルタイムで送信。相手の端末上ではアバターが送信者の表情通りに動く世界を目指す。「コミュニティサイトなどの顔が見えないコミュニケーションでも、感情を伝えられるツールとなる」(宮田氏)。 表情を検出するのに必要な画像データの品質は、携帯に今でも搭載されている31万画素程度のカメラで十分という。ただ、課題となるのが、携帯の処理能力。「顔を見つけるところでパフォーマンスが要求される」(宮田氏)からだ。 しかしツインCPUが普及するにつれ、処理能力の問題も解決されるかもしれない(7月12日の記事参照)。アイマティックジャパンでは、米TIの携帯向けアプリケーションプロセッサOMAP上で「顔をトラッキングして動かすことに取り組んでいる」(宮田氏)という。2003年中には技術が完成する見込み。 将来的には、ソフトウェアをチップ化してカメラモジュール自体に組み込むことも想定している。撮影した直後に顔の認識が行われ、画像データと共に顔の表情のデータが取得できる……。そうなれば、カメラの利用範囲が大きく広がるのは間違いない。 アバター自体の表現にしても、携帯の3D機能は進化し続けている。決められた動きしかしない3Dキャラクターよりも、ユーザーの顔の表情通りに動くキャラクターは魅力的。これまで、いわゆる“写メール”しか使い道がなかった携帯のカメラの、新しいコミュニケーションツールとしての役割に期待したい。
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