Mobile:NEWS 2002年12月9日 01:42 AM 更新

“夢の無線通信技術”――「UWB」の現状

超低消費電力で100Mbps以上の高速通信が行えるという次世代の無線通信技術「UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)」。通信総合研究所(CRL)が開催した研究報告会で、UWBの特徴や各国の取り組み状況、実用化に向けての課題などが紹介された

 次世代の無線通信技術として期待されている「UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)」。米国などで実用化に向けた研究が盛んだが、日本では通信総合研究所(CRL)が中心となってUWBの実用化/標準化を目指している。そのCRLが先日開催した「CRL第103回研究報告会」で、UWBの特徴や各国の取り組み状況、実用化に向けての課題などが紹介された。

 超低消費電力ながら数キロメートルの無線伝送や100Mbps以上の高速通信が行え、さらにGPSよりも正確な位置測定や高精度な測距機能でレーダーとしても使える。また、同じ周波数帯の無線機器との混信もない――。


100Mbps以上の高速通信や超低消費電力が可能なUWB

 まさに“夢の無線通信技術”といえるUWBだが、CRL無線通信部門横須賀無線通信研究センターでUWBの研究を行う横浜国立大学教授の河野隆二氏は、その仕組みについて「近年無線通信で使われているスペクトラム拡散方式のメリットをさらに強調したのがUWB」と語る。


CRLでUWBの研究を行う横浜国立大学教授の河野隆二氏

 近年、無線LANやBluetooth、CDMA方式の携帯電話など、さまざまなワイヤレス通信規格が登場している。これらは、デジタル信号を拡散符号によって広い帯域に拡散させて送信し、受信側で同じ拡散符号でデジタル信号を復元する「スペクトル拡散通信方式」を使っている。同じ拡散符号でないと元の信号が復元できないため、機密性を確保できるほか、ノイズに強く、過密状態になっても急激な品質低下を起こさない、などのメリットを持つ。

 「これらのメリットは、スペクトルを拡散させることで成り立っている。それならば、拡散の帯域をさらに広げることでスペクトラム拡散方式のメリットを強調させようというのがUWB。広帯域にすることで100Mbps以上の高速通信が可能となり、HDTVのような高精細の動画像がワイヤレスで送信できるようになる」(河野氏)。

 また河野氏は、超広帯域化・高速伝送が拡散変調なしで行える点や、周波数処理をせず時間領域処理だけでワンチップ化できるなどUWBの製造面でのメリットを挙げた。

UWBを取り巻く各国の動き

 UWBの国際的な動きとしては、2月14日に米連邦通信委員会(FCC)がUWBの商用化を許可するなど、米国での取り組みが活発になっている。

 そのほか、全世界的には国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)が規制面および技術面の双方で検討を始めたほか、米国ではPANの標準化を検討するIEEE802.15ワーキンググループがUWBの標準化を開始し、欧州ではETSI(欧州通信規格協会)が法規制のためのワーキンググループを開催している。

 「FCCの認可はセンセーショナルな出来事。これまで日本の産業界はUWBへの認識が低かった。米国中心で動いているUWB研究に、追いつき追い越すべく、今年からCRLを中心に産官学連携のプロジェクトが始まった」(河野氏)。

 日本では、総務省情報通信審議会が「UWB無線システム委員会」を発足し、周波数共用モデルの検討や導入のための技術条件の検討を始めている。CRLでは、UWBのデバイスからシステムまでの一貫した研究開発を平成14年度から行っており、4年後の実用化・標準化を目指している。

 「日本では他国に比べて遅れているUWBへの取り組みを一気に加速させるため、米国で採用されているマイクロ波だけでなくミリ波でもUWBを実現しようとしている。ミリ波の利用というのは日本独自。そして、今年9月に産官学連携の共同研究コンソーシアムが設立された。ここで、UWBのオープンアーキテクチャ化や民間への技術移転、国内制度化、ITU-Rでの国際標準化をはかっていく」(河野氏)。

UWBの課題

 期待の大きいUWBだが、商用化には解決すべき課題も多い。非常に広帯域の周波数を占有するほか、UWBの専用帯域の確保が困難なため、既存システムの帯域に重畳して利用しなければならず、周波数共用によるシステム間干渉の問題もある。そして何より、現行の電波法では超広帯域スペクトルを利用できる周波数帯の確保が難しいこともある。

 「日本でもGPSや既存のレーダー、警察無線、医療用など既存の通信システムとの干渉は懸念されている。ただし、技術的な面でみると、UWBの送信パワーは75ナノワット以下で微弱電波よりも少ない。また、ヘアドライヤーや電気シェーバーから出ているノイズよりも少なく、UWBだから既存の通信機器に影響するということにはならないと思う。また、UWB無線システム委員会などで理論検討や実証実験を行って、安全対策や干渉問題には2重3重の検討を重ねていく」(河野氏)。

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▼ 通信総合研究所

[西坂真人, ITmedia]

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