「ケータイ先進国日本」は復活するのか?
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前回の冒頭でも触れたが、通信キャリアの体制も少しずつではあるが変わりつつある。今回は、インセンティブモデルをキャリアビジネスの観点から分析し、今後の動きに関する考察につなげてみよう。
始まりは携帯事業者
前回までに、インセンティブモデルという、携帯電話産業を支えてきた富の分配における「エンジン」の説明と、それが完全になくなってしまったらという思考実験をした(第1回、第2回)。
その場合、最も大きな影響を受けるのが携帯端末メーカであると予測し、結果的には、市場牽引力が携帯事業者から一部携帯端末メーカに移動するという仮説を示した。しかし、あくまでも引き金を引くのは、携帯事業者である。では今回と次回にわたり、携帯事業者側からの推測をしてみよう。
前回の仮定では、すべての事業者がインセンティブモデルをなくした場合という極端なケースであった。このようなケースはあり得るのだろうか? 実際には複数の携帯事業者が存在しているため、携帯事業者間での「かけひき」が存在する。一般的にこのような「かけひき」をモデル化する道具として「ゲーム理論」がある。日本には、主要三社の携帯事業者が存在するが、ここでは簡潔にするため、二社間のかけひきで考察してみよう。
両社のかけひき
それでは、分かりやすいようにNTTドコモと同程度の規模の事業者、A社、B社の2社が存在すると想定しよう。それぞれ、年間端末手数料(インセンティブ費用)を1兆円、売上高を4.6兆円とする。もうすでに、携帯電話の普及は一巡し、ほとんどの消費者はどちらかの事業者と契約しているものとする。つまり今までのようなインセンティブモデルが、新規ユーザの短期間の開拓に対して寄与していない。
両社の取れる選択は、手数料(インセンティブ)の廃止、もしくは継続という戦略だ。手数料を廃止した場合には、1兆円の手数料分がその事業者の利得となる。しかし、一方が廃止し、他方が継続した場合は、消費者の乗換えが発生し、15%(約0.6兆円)の売上げが手数料を継続している会社に移ってしまうとする。また両社とも継続した場合には、コスト削減も、乗換えによる利得もなく、双方の利得は0とする。
これらの仮定の元、各事業者の利得は下記の通りとなる。
事業者B | |||
手数料継続 | 手数料廃止 | ||
事業者A | 手数料継続 | (0、0) | (0.6、0.4) |
手数料廃止 | (0.4、0.6) | (1、 1) |
(Aの利得、Bの利得)(兆円)
この表で確認すべき点が2つある。1つは、両社がインセンティブを廃止した場合が両社とも最大の利得を得ること(表での右下角)。 だが、片方の事業者がインセンティブを廃止し、他方が継続した場合には、継続したほうの利得がより大きい。この場合、インセンティブを廃止した事業者は、競合に対して与えなくてもよい利得を無償で与えることになる。そのため、相手の取る戦略が不明の場合、落ち着くエリアは、両社ともインセンティブを継続することになり、両社とも最小の利得を得る(表での左上)。
実際には、両社が協調し手数料を廃止した場合、この表では最大の利得を両社が得るにもかかわらず──である。
「囚人のジレンマ」の状態?
このような、両者とも協調すれば(戦略を合わせれば)最も高い利得を得るエリアがあるにもかかわらず、相手が裏切る(別の戦略を取る)可能性がある場合に、双方にとってより低い利得のエリアに帰着するケースを、ゲーム理論では「囚人のジレンマ」と呼んでいる。
(正確には「囚人のジレンマ」の状況とは同一ではないが、協調戦略を取れるかどうかが不明であるため、より低いエリアに帰着するという点では一致している)
現在、携帯事業者が多大な費用を払ってもインセンティブモデルを継続しているのは、この状態に陥っているためではないだろうか。
「囚人のジレンマ」に関しては、どのゲーム理論の著作でも触れられている。興味のある方はぜひ一読をお勧めする。
ジレンマからの脱却
今回は、携帯時業者側の側面から、インセンティブモデルに関して論じた。我々は、このモデルの継続が、事業者間での「かけひき」の間で結果的に生じているのではということを、ゲームの理論をモデルとして説明した。
しかし、今後もインセンティブモデルが継続されると断じているわけではない。
ある仮定の下で、この「囚人のジレンマ」の状況が生まれていることに、多くの人々が気づいている。現在のインセンティブモデルを形成している仮定が異なる方向に動くとしたら、日本の携帯通信業界の構図が変わるだろう。
次号では、変化の可能性を持つ部分を説明し、今回の「インセンティブモデルの崩壊」のまとめを行いたい。
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[ザイオン 福本靖, ITmedia]
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