Mobile:NEWS 2003年8月4日 07:11 PM 更新

真の1秒を求めて〜原子時計

原子時計という言葉を聞いても、それがどのように時を計っているのかはあまり知られていない。今や15ケタの誤差(500万年に1秒)以上に、“1秒を計る”技術は進んだが、その次を目指して研究は進んでいる。

 原子時計といえば「絶対狂わない時計」などと表現されることが多い。しかし厳密に言えば、これは誤りだ。通信総合研究所(CRL)では、今も、正しい時を求めて日々研究が続いている。7月31日のCRL一般公開で、原子時計の謎を聞いた。

いろいろな原子時計〜セシウム原子時計

 そもそも秒ってなんだろうか。昔は、地球の自転や公転から決められていた。しかし現在は違う。

 「秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間である」と定義されている。原子時計の代表例であるセシウム原子時計は、この定義を使って“1秒”を決めているのだという。

 この難しい表現は、原子時計の原理を知るとなんとなく意味が分かってくる。CRLの原子時計は世界でも6〜7台しかない、一次周波数標準器と呼ばれるものだ。


東京・小金井市にあるCRLのセシウム原子時計の模型。左からセシウム原子が入っていき、途中で電波を浴びる。右の端で変化がチェックされる。左右対称に作られており、環境による誤差を減らすため右から入れて左でチェックもできるようになっているという

 具体的にはこうだ。セシウム原子にレーザーを当てて、電子の状態をそろえる。続いて、91億9263万1770Hz(約9.1GHz)の電波を当てると、電子の状態が不安定に変化するので、その変化をチェックする。

 キモは、正確に9.1GHzの電波を出すには、先に1秒の値が決まっていなければならないということだ。1秒間に91億9263万1770回の振動があるのが9.1GHzだからだ。つまり適当に電波を出していって、セシウム原子の状態が変化したところが、ちょうど9.1GHz。逆に言うと1秒間が決まることになる。

 チェックの結果を電波の周波数にフィードバックすることで、1秒がどのくらいの長さなのかを計り続ける。CRLのセシウム周波数標準器は、このようにして運用され、実に正確さ(確度)は6×10-15にまで達しているという(500万年に1秒の誤差に相当する)。こうやって“日本の時刻”は決まっていくのである。

※実際はCRLの一次周波数標準器は連続動作できない。もっと精度の低い原子時計を複数連続運用し、平均を取った上で、一次周波数標準器で測定した値で補正をかけている

 ただしどの原子時計でも同じような正確さを持っているわけではない。CRLによると、「一般的なセシウム原子時計は12ケタ(10-12程度の正確さ」なのだという。

 確度を上げていくのは実にたいへんな作業だ。例えば先の定義には実は「セシウム原子の温度は絶対零度」という前提がある。CRLの時計ではレーザー冷却を使って絶対温度数度まで冷やしているというが、もっと小型の原子時計ではそこまでは難しい。「12ケタ目からは相対論的な影響も出てくる」とCRLの研究者は話す。

ルビジウム原子時計、水素メーザー原子時計

 原子時計を巡る話では、いくつかの指標があるので注意が必要だ。“確度”というのは周波数の正確さ(つまり1秒の正確さ)を示す。“精度”とは確かさを表し、ある範囲でのブレの範囲を示す。さらに、安定度という指標もある。どのくらい長い間、正しい値を示すかというものだ。

 位置測位に使われる米国のGPS衛星には重さ数キロというルビジウムを使った原子時計やセシウム原子時計が搭載されているという。また、将来の測位衛星を目指した実験衛星である国産のTES-VIIIには水素メーザー原子時計が搭載される。

 ルビジウム原子時計は価格は安価だが精度では劣る。メーザーとはレーザーの原型となったもので可視光線外のレーザーだ。コヒーレントな光をレーザー、マイクロ波をメーザーと呼ぶ。

 「セシウム原子時計は長期的な安定度が高い。逆に水素メーザー原子時計は、短期的な安定度は高いが、長期的にはドリフトする(全体にずれていく)」(CRL研究者)という特徴を持つ。

時計はどこまで正確になるのか

 消費者の観点から言えば、電波時計などの登場で過去にない正確な時刻が得られるようになっている。電波時計の説明では、「誤差は10万年に1秒」と書かれているが、もちろん10万年たっても1秒はずれない。1日に2回、補正されているからだ。電波時計の元となる原子時計も、より精度の高い一次周波数標準器によって随時補正されている。

 そもそも、1日の長さは正確に24時間ではない。原子時計は1958年1月1日0時0分0秒を基準としてスタートしたが、「地球の回転がふらふらしているため、国際原子時と世界時(地球の自転を元にした時刻)がどんどん離れていってしまう」(CRLのQ&A資料より)。1972年時点で既に差が10秒近かったという。

 最も精度の高い時計に単純に従うと、いずれお昼が夜の12時になってしまう……といったことが起こり得る。単なる“時刻”という意味では、既に十分過ぎる精度にまで高まっているのかもしれない。

 それでも原子時計を使った“正しい時間”を求める試みにゴールはない。

トラップイオンを用いた原子時計の可能性

 CRLでは、15ケタ以上の確度を求めて、セシウム原子時計とは別の原理による時計の研究も始めている。これは水銀やカルシウム、イットリウムの原子を使い、イオントラップという技術を使うものだ。

 セシウム原子と異なり、反応する周波数が約400THz(この周波数では電波ではなくレーザーとなる)と高いため、1秒の計測にかかる時間が短くて済む。反応する周波数幅も9.1GHzの電波に比べて狭いため、より確度の高い値が求められるのではないかとされている。

 世界各国がさまざまな原子で計測を行っているが、CRLでは比較的手つかずのカルシウムに焦点を絞った。「イオンをトラップして捕まえるのがこの秋くらいにはできる」とCRL研究者。現状では見ているのは14ケタ程度だが、セシウムに比べて可能性は大きく、「理論的には18ケタが可能だろう」(研究者)と話す。

 測定技術、デジタル通信などでは精密な時間測定が高い重要性を持つ。特にGPSに代表される衛星測位技術では、精度の高さが位置の正確さに直結してくる。

 真の“1秒”を求めて、研究は現在も進行中だ。

※“Hz”という、コンピュータでも通信でも一般的になった言葉も、正確な1秒に依存している。環境によって1秒が異なれば、Hzの意味が変わってしまうからだ。CRLが「周波数国家標準機関」と呼ばれるのもこのためだ。一緒に提供している「日本標準時」は、現在の精度からいえばおまけ的なものとも言えるかもしれない



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[斎藤健二, ITmedia]

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