Mobile:NEWS 2003年8月20日 04:49 PM 更新

「ケータイ先進国日本」は復活するのか?
モバイルコマースの可能性

モバイルコマース本格展開の予感が強まってきた。今回は携帯電話を使った決済が普及するにはどんな条件・環境が必要なのかを考えてみる。

 NTTドコモやKDDIは、データARPUの引き上げおよび決済代行手数料による収益増を見込んで、いくつかのモバイルコマースの実験やサービスを開始している。また、J-フォンを含む携帯3社とコンビニネットワークサービスを手がけるNTTインターネットは、2次元バーコードの一種「QRコード」を使ったサービスについて、規格統一の方向性を検討していることを明らかにした(8月12日の記事参照)。いよいよ本格展開の兆しが見え始めたモバイルコマースであるが、今回はデータARPUの引き上げという観点から少し離れて、決済の面から市場規模を整理してみたい。

 決済手段といったらどのようなものを思い浮かべるだろうか? 銀行振込、クレジットカード、コンビニ決済……、それから現金決済。それぞれが真っ先に思い起こす決済手段が、自分の最も身近な決済手段といえよう。

 現在、モバイルコマースに関わるニュースが多く見受けられる。今後、携帯電話が身近な決済手段となるのか? 本記事ではこれに関する考察を行ってみる。

決済手段が成り立つ条件

 われわれは、ある決済手段が社会インフラとなり、受容されるためには、少なくとも下記2点を満たしている必要があると考えている。

 ひとつは、決済当事者(受取人と支払人)の利害が満たされること。原則としては、支払いが確実となる時点で商品を引き渡すという、“交換”が成り立つ状況が必要となる。これは DVP (Delivery Versus Payment) という言葉で示されることもある。

 例えば、通販での物販を想定した際には、通販会社は入金があってから商品を発送したい。一方、顧客は商品が到着してから入金をしたい。こうした問題はDVPが成立しないために起因する。

 二つ目は、他決済インフラと比較して、決済コスト、利便性が高いことである。例えばコンビニ決済は、銀行、郵便振込みと比べて、時間の自由度、都市における決済場所の数といった利便性の高さにより受け入れられた。では、モバイルコマースはどうであろう?

 5月29日、電子商取引推進協議会は「平成14年度電子商取引に関する市場規模・実態調査」を発表した。電子商取引実施事業者等へのアンケート調査および経済産業省の政府統計を参考にし現状市場規模を推計したものである。この調査によれば、日本のモバイルコマース市場規模は、2002年では3210億円と推計されている。

 これでわかるように、エンタテインメント(着メロなど)が 40.5%と高い値を示している。つまり、エンタテインメントに関しては、携帯電話で支払するのが“自然”ということである。

 モバイルコマースで、着メロ、ゲームなどのエンタテインメントの部分が多いのは、携帯で決済後、ゲーム、着メロなどのコンテンツをすぐに自分の携帯上で動作確認でき、DVPが成立しているからだとは理解していただけると思う。

 逆にいえば、モバイルコンテンツで、DVPを満たしているのはモバイルコマースのみとも言うことができる。あたりまえのことではあるが、“携帯電話で使うコンテンツを携帯電話で支払う”のは自然な形態なのである。

物品の携帯決済の可能性

 「平成14年度電子商取引に関する市場規模・実態調査」の2007年度推計を見てみよう。この調査では、今後5年間でBtoCモバイルコマース市場は約1兆7760億にまで増加する(2007年のBtoC市場規模12兆3000億円の14.43%)と予測している。

 品目別には、エンタテインメントがモバイルコマース市場全体の約40%の割合から21%へと大きく比率を下げ、代わって旅行が29%で最大の品目となる。その他、比率を上げる品目は、衣料・アクセサリー、食料・飲料、趣味・雑貨・家具といった、通信販売のカタログや雑誌、テレビなど他メディアとの連携により拡大が期待される品目になると推定されている。

 このレポートでは、モバイルコマース市場の成長を期待しているわけだが、言い換えると、決済手段としてモバイルが使われること、すなわちモバイルコマースを促進させるためには、他インフラより決済コストが安く、利便性が高いことが必須条件となってくることになる。

 例えば楽天がひとつの実例となる。身近にある携帯電話の利便性を活かし、かつ画像による確認や検索のしやすさがあれば、気軽に売買が行われる。

 楽天でのモバイルによる「ケータイ版楽天市場」の取扱い金額も2002年は月間で2億円近くに上った。その成長を受け、2003年3月には、商品数65倍、出店数10倍という規模に拡大した。さらに8月には売上を伸ばしている「売れ筋ランキング」で1ジャンルのみのランキングから30ジャンルの掲載へと大幅に拡充する。また、「ケータイ版楽天フリマ」も8月にオープンしている。

韓国に見るモバイルコマースのヒント

 もう一つの携帯大国、韓国の状況をチェックしてみよう。ここに次のステップに進むヒントが存在する可能性がある。

 7月1日、韓国IDCが発刊した「韓国モバイル決済市場の現況および分析レポート」によると、2003年は2300億ウォン、今後は年平均55%の成長率を記録し、2007年には2兆1200億ウォン規模に増加すると見込まれていると発表されている。

 モバイル決済サービス市場の規模は、インターネット・コンテンツの有料化が進み、小額決済の領域が拡大することにより持続的な成長ぶりを見せると予想されている。韓国では携帯電話を利用した決済は加入手続きが簡単で、携帯電話番号と住民登録番号(韓国で身分を証明する固有番号)を入力するだけで決済ができる。そのため使用者がさまざまな携帯機種で便利に利用できるという長所があり、急速に普及が進んでいる。

 また、多彩なサービスを提供しているKTFは、モバイル商品券「K-merce商品券」の売上高が大きく伸びていることを明らかにしている。「K-merce商品券」とはバーコードの形で携帯電話に保存され、オンラインおよびオフラインの加盟店で各種商品を購入できるモバイル商品券で、2002年9月から発売されている。発売開始から今年2月まで同商品券の売上が月額平均2億ウォンだったが、今年3月には8億ウォン、4月には10億ウォン以上の売上が予想されるなど、売上が急激に増加している。

 「初期段階では、モバイル商品券の加盟店は外食チェーンと有料インターネット・サイトが中心になっていたが、今年3月からはその範囲が衣類、スポーツ用品、美容、ショッピング・モール百貨店などに広がり、売上が増加している」とKTF。年末までに加盟店を大手流通店、レジャー産業まで拡大させ、付加価値機能も追加する計画であることも発表されている。

 これらは何を意味しているのだろうか? テクノロジーのみが市場を牽引しているのではないのは確かである。

 果たして、“携帯電話ならでは”の利便さがユーザの「クレジットカードや財布代わり」になる日は、日本でもすぐそこに来ているのだろうか。次回は、モバイルコマースの発展を阻んでいる要因に関して、考察を進めてみたい。

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著者紹介
福本靖:株式会社ザイオン取締役コンサルティング事業部長。日本ヒューレット・パッカード時代から多くのネットワークおよびモバイル・ビジネスに従事。「LANネットワーク管理技法」「Kornel Terplan」の著作もある。



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[ザイオン 福本靖, ITmedia]

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