携帯電話が財布になる日モバイルクロスオーバー(3/3 ページ)

» 2004年02月26日 02時19分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 あくまで本命はICクレジットカードという姿勢だが、携帯電話のネットを使ったサービスとの連携に期待しているという。

 決済サービスとしては、あくまで既存のクレジットカードの延長線上であり、利便性はそのまま維持される。非接触ICのように利用するためにプリペイドしておく必要はない。

 クレジットカードの強みは、加盟店の多さ、すなわち現金に並んで汎用性の高い決済サービスである点だ。携帯電話を使ったサービスでも、このメリットを損なわないように腐心しているという。

 「我々が『赤外線』を選んだのは、ユニット価格が安いので加盟店に設置するカード読み取り端末に搭載しやすいからです。もちろん、ドコモを中心に携帯電話側に標準搭載化されている点も大きいですが。非接触ICはアジア地域でFeliCaが注目されていますが、VISAとしては将来的に世界共通で使えるのが重要。その点でISOで国際規格が策定中になっている赤外線のほうが有利です」(ビザ・インターナショナル・アジア・パシフィック・リミテッド 新技術推進部の山本正行ディレクター)

 現在、国内で稼働中のクレジットカード対応端末は、CATとPOSを併せて200万台程度だという。この巨大なインフラに新たなシステムを導入するには、高額なユニットでは不可能だ。ビザ・インターナショナルでは、まず90%以上の端末を2009年までにICカード対応にする。赤外線通信については、「ICカード対応端末の中に、赤外線通信対応のものも用意して普及を図りたい」(山本ディレクター)という。

 KDDI向けはUIMカード+IrFM、NTTドコモ向けはiアプリ+IrMCとシステムが違う(2003年4月の記事参照2002年9月の記事参照)。

 「赤外線が実験段階だったKDDIは、セキュリティ上理想的なUIMカードとIrFMという方式で実験しました。一方、NTTドコモは既存技術を使う点から、iアプリとIrMCを使っています」(山本ディレクター)

 ではKDDI向けのほうが本命かというとそうではなく、既存技術として普及しているもので、できるだけセキュリティの高いものを使っていく方針だ。

 一方、赤外線を使ったクレジット決済サービスの弱みは、従来のクレジットカード同様に未成年者やフリーター層など、クレジットカードが発行されないユーザー層を取りこぼしてしまう点だ。前述した代金代行徴収の拡大や、プリペイド方式を取るモバイルFeliCaなど非接触IC決済は、携帯電話ユーザーならば原則全員が利用できる。

 「クレジットカード発行の審査基準を緩くするのには限界があります。米国ではクレジットカードが発行できない層に対して、VISAデビットというデビット決済システムを提供しており、年20%ほどで急成長しています。日本でも今年中にVISAデビットを提供する予定ですので、これで利用者層の拡大ができると考えています」(リンツ部長)

 今のところ、VISAデビットがすぐに携帯電話向けサービスでも使えるかは不明だ。しかし、クレジットとデビットの2つがあれば、VISA陣営もかなり広いユーザー層をカバーできるようになる。

 クレジットカード陣営は、既にリアル決済の現場にコネクションを持っている。課題は赤外線対応の加盟店側端末の整備が進むかだが、この点をクリアすれば非接触ICの強力なライバルになる。特にプリペイドに心理的な抵抗感を感じる数万円単位の高額決済にも使えるのは有利だろう。

携帯電話が決済を支配する日は来るか?

 ここまで読んでいただいた読者ならば、既にお気づきだろう。今回、紹介した3つの決済サービスは、役割分担が可能になっている。

 代金代行徴収の拡大は基本的にeコマース向けの決済手段だ。非接触ICを使ってもネット決済は可能だが、プリペイド不要な点で、eコマース向けの主役になる可能性が高い。

 モバイルFeliCaなど非接触ICは、プリペイドカードの代替からスタートしているので、この分野からリアル決済に浸透していく。数百円の少額決済から、数千円程度の決済に向いている。また決済にかかるスピードが速いので、自動改札や自動販売機、有料駐車場のゲート、回転率を重視する店舗での決済に向いている。逆に数万円単位の高額決済では、大金をプリペイドする人はそう多くないと予想されるので、あまり使われないだろう。

 携帯電話を使ったクレジットカード決済は、非接触ICと同様に少額決済でも使える。しかし実際に使われるのはリアルなクレジットカードが使われるのと同じ場面、すなわち数千円から数万円の高額決済においてだ。「VISAッピ」では赤外線通信で支払ってもその後に自筆サインが必要で、利用に時間がかかる。仮に自筆サインが省略できるようになっても、決済終了までにかかるスピードでは非接触ICにかなわないだろう。その点から、少額課金や回転率重視の場面ではあまり使われない可能性が高い。

 このようにこれら3つの決済サービスは得手と不得手が相補完関係になっている。そして携帯電話というハードウェアは、この3つを併存させられる。

 eウォレット(電子財布)というアイディアは古くから存在したが、近い将来、携帯電話がそれを実現することになりそうだ。

神尾寿

通信・ITSジャーナリスト。IT雑誌契約ライターを経て、大手携帯電話会社の業務委託でデータ通信ビジネスのコンサルティングを行う。1999年にジャーナリストとして独立。通信分野全般に通じ、移動体通信とITSを中核に通信が関わる分野全般を、インフラからハードウェア、コンテンツ、ユーザーのニーズとカルチャーまでクロスオーバーで見ている。ジャーナリストのほか、IRICommerce and Technology社レスポンスビジネスユニットの客員研究員も努める。

▼急接近する自動車とケータイ
携帯電話と自動車。一見すると異なる“業界”が互いに急接近している。両者のクロスオーバーがモバイル業界に与える影響は大きい。

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