ドコモが地デジ端末「OnQ」で目指すもの地デジ+モバイルが生み出す世界(7)

» 2004年08月19日 21時05分 公開
[中村実里,ITmedia]

 「いつかのタイミングで1セグメント放送が始まる。その時に、ただ携帯電話にテレビを搭載すればいい……というような消極的な姿勢ではいけない」

 そう話すのは、NTTドコモのマルチメディアサービス部複合メディア放送メタ流通担当の、高間亮行氏だ。

 「(そのような姿勢では)私たち通信キャリアにとっては、メリットどころかデメリットを生む可能性すらある。そこで私たちは、逆に、放送との融合については、積極的に取り組んでいく考えだ」

 ITmediaでも伝えているとおり、2005年末頃には地上テレビの1セグメント放送(1セグ放送)が携帯電話で視聴できるようになる(3月11日の記事参照)。だがこれは、通信キャリアにとって諸刃の剣だ。1セグ放送対応のせいで端末開発の負荷が大きくなるのはもちろん(7月5日の記事参照)、ニッチな時間にiモードを利用してもらって通信料を稼いでいる部分を、テレビに奪われてしまう可能性も否定できない(6月3日の記事参照)

 それでも、マスメディアであるテレビと、個人のコミュニケーションツールである携帯電話を融合する利便性に目を向ければ、新しいビジネスチャンスもきっと見つかるはず。ドコモもそう考えており、5月のビジネスシヨウ2004では、ドコモの地上デジタル端末コンセプトモデル「OnQ」(オンキュー)を初披露している(5月11日の記事参照)

 ドコモのコンセプトモデル、OnQ。5月11日のビジネスシシヨウで公開された

 このコンセプトモデルを開発した「OnQプロジェクトチーム」は、NTTドコモ内で「通信と放送の融合」をミッションとしながら、その可能性を模索するチームだ。

 高間氏は、実はチームの発足は、2年以上も過去に遡ると話す。テレビ好きのメンバー5人が集まって、放送と通信が融合する新たなビジネスチャンスや、これまでにないテレビの視聴スタイルを検討している。チームが目指すのは、“テレビを見たいときに、見たいものを、見たいように、見ること”。これらを解決することを考えて、形にしたものがOnQだったという。

キーワードは「コンテキスト」

 高間氏は、同プロジェクトでは、テレビを携帯電話に実装することを主目的にしているのではないと話す。

 「そうではなく、テレビ番組の周辺にある経験(エクスペリエンス)と文脈(コンテキスト)に着目する」。それらをユーザー間で共有する方法を提案していくという。

 高間氏によれば、そもそも携帯電話を介した個人対個人のコミュニケーションは “誰かとつながりを持ちたい”という欲求から成り立っている。コミュニケーションの内容自体には、さほど意味がないことも分かってきているという。

 これと同じように、携帯によるテレビ視聴でも個別のコンテンツ(番組)の中身より、人とコンテンツ、コンテンツとコンテンツの間にある“コンテキスト(意味や関係性)”の流通に注力したいという。 

 この思想の一端を示しているのが、OnQのメタデータ機能だろう。同端末では番組視聴中に、気に入ったシーンに「テレマーク」と呼ばれる印を付ける機能を備えている。このメタデータを友人にメールで送信することで、ちょどお気に入りのサイトのURLを知らせるように「この番組を見てはどうか」と伝えることができるのだ。

 OnQでは、クレードル部にHDDレコーダー機能が搭載されており、番組を録り貯めることができる。クレードルにイーサネットを接続して、インターネットに接続することも検討されており、その場合は地上波などのテレビ番組だけではなく、ブロードバンドコンテンツを購入して蓄積できるようになるかもしれない。

 そうなると、コンテンツの選択肢はますます広がり、どれを視聴したらいいか迷ってしまう状況も出てくる。そんな場面で、個人の興味や趣向でコンテンツをリコメンドし合うことができれば、好みのコンテンツにたどり着きやすい環境がつくられる。新しいテレビの視聴スタイルを提案したものといえるだろう。

 OnQのクレードルは、HDDレコーダー機能を備えている。ここに蓄積されたコンテンツの中から、友人がメールで教えてくれた番組のみを視聴することも考えられる

 高間氏はまた、OnQが“on cue”、すなわち「きっかけ」を意味すると話しつつ、こう続ける。

 「携帯電話を“きっかけ”にして、今までバラバラに存在していたコンテンツやサービスをつなぎ合わせたい。簡単な例でいえば、テレビを見ていて、その主題歌の着信メロディを携帯サイトからダウンロードする。あるいはその逆に、携帯コンテンツをきっかけにして、テレビを見ることも考えられる」

 “テレビを見たいときに、見たいものを、見たいように、見る”――。その実現に向けて、プロジェクトチームの挑戦は続く。

 OnQの設計・開発には、プロダクトデザイン会社のLeading Edge Design(L.E.D.)が協力した。“世界一劣悪な通勤環境”の日本を、“世界一快適な通勤環境に変えたい”と願いつつ、考えられたのが、この筐体デザインだという。

 OnQは、片手ですべての操作ができるよう配慮されている。これは、つり革につかまっていてもラクにテレビ視聴できることを考えてのものだ。

 放送中の番組と連動しながら、字幕データも表示させられる。電車の中など公共の場所でも、テキストを読むことで、音を出さずにテレビ視聴を楽しめるという。

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